『中国、科学技術覇権への野望―宇宙・原発・ファーウェイ』

米中「最先端技術戦争」を読み解く

2020年8月号 連載 [BOOK Review]
by 宮本雄二(宮本アジア研究所代表)

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『中国、科学技術覇権への野望―宇宙・原発・ファーウェイ』

令和の「代替わり」 変わる皇室、変わらぬ伝統

著者/倉澤治雄
出版社/中公新書ラクレ(860円+税)

筆者の倉澤治雄氏とは1990年代の終わり頃、ともに北京で仕事をした。本書を読んだ第一印象は、筆者の科学技術に対する造詣の深さにある。改めて氏の略歴を読み、フランス国立ボルドー大学の物理化学博士号を持つ科学者でもあることを知った。難解な科学技術を平易に語ることができる理由がよく分かった。同時に仕事を通じ政治にも中国にも深い理解がある。だから中国の科学技術の現状と将来、米中科学技術対立等の論点に対し、広い視野から掘り下げた分析と説得力ある予測が可能となっているのだ。

中国の科学技術力は、トータルするとまだ米国には及ばないが、一部の論者が言うほど差はないと説いている。中国の力の源泉は、桁違いの資金量と研究者の数にあるという。しかも信じられないスピードで発展している。膨大な数の研究者が養成され、巨額の資金が、選択された研究機関に集中的に投入されている。その数の力が、質の転換に結びつく可能性を指摘する。同時に米国の持つ優位性、中国の持つ限界も指摘する。バランスの取れた客観的な記述に徹しているのだ。

米中は、いずれ折り合いをつけて「競争的共存」をはかるしかない。相手を押さえ込み、身動きできないようにすることは物理的に不可能だからだ。両国が、そのような「悟り」に達する最大の難関が、軍事安全保障の分野にある。相手を信用せず、最悪のシナリオを想定の上、自国の安全を確保する、というのが軍事安全保障の論理であり、使命だからだ。灰色の妥協が最も難しい分野なのだ。

軍事的に勝利するためには、優れた兵器システムとそれらを支える経済力が不可欠になる。ともに強力な科学技術の支えがなければ成り立たない。科学技術は、こういう著しく重要な位置に押し上げられている。米国は、中国が科学技術面で急迫していることを、不思議なことに、ある日突然、発見し、驚愕し、パニックになっている。これが現状だ。

米国が今やるべきことは現状を冷静に深く分析し、米国の直面する挑戦を抽出し、総合的かつ長期的な戦略と政策を打ち立てることである。個々の案件を「モグラ叩き」的に処理することよりも、ここは基本に戻り、米国の科学技術水準を、いかにしてさらに高めるかにより多くの努力を傾注するべきではないだろうか。最後は、自由で開かれた米国社会そのものが、最大の力を発揮するであろう。

本書が、今日の国際関係の最大の鍵となってきた米中の科学技術の現状と将来について、読者に多くの知識と示唆を与えることであろう。

著者プロフィール

宮本雄二

宮本アジア研究所代表

元駐中国特命全権大使

   

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