「米中衝突」回避するための処方箋

『覇権国家アメリカ 「対中強硬」の深淵』著者/園田耕司 評者/池田徳宏

2024年5月号 連載 [BOOK Review]
by 池田徳宏(元海将/富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社・安全保障研究所所長)

  • はてなブックマークに追加
『覇権国家アメリカ 「対中強硬」の深淵』

『覇権国家アメリカ 「対中強硬」の深淵』

著者/園田耕司
出版社/朝日新聞出版(本体2000円(税別))


2022年秋、私はハーバード大学でグレアム・アリソン教授の「米国家安全保障戦略における中心的課題」という授業を受けていた。そこで私は7つの米国家戦略上の課題に対して米国政府の立場での政策オプションメモ作成に悪戦苦闘していた。膨大な参考文献を読んで課題を考えることを通じて、米国について新たな発見を得る毎日であった。

この素晴らしい経験を誰かと共有したいと思っていた時、偶然にも著者(園田氏)のセミナーにバーチャルで参加した。

著者の発表テーマは「中国、米国、日本の視点を踏まえた台湾情勢」であり、その中で著者がジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)において私と同じように悪戦苦闘しつつ米国および中国の視点を導いていることを知った。私は同志を見つけたという感動を覚えて居ても立っても居られず著者に連携を依頼した。

それから、私たちはボストンとワシントンDCを行き来して両大学での研究から得た意見を交わすこととなり、お互いに「同じ匂いがしますね」というほど様々な点で共感したのである。

本書は著者のアカデミアでの経験のみならず、4年間の朝日新聞ワシントン総局勤務中に行った米政権中枢経験者を含む著名な方々への聞き取りも交えて覇権国家アメリカの対中戦略を奥深く分析している。とくに、トランプ政権の大統領首席戦略官バノン氏や、国家安全保障問題担当大統領次席補佐官シャドロウ氏へのインタビューは極めて貴重である。

台湾有事をめぐっては、安倍元首相が「台湾有事は我が国有事」と発言して以降、日本ではあたかも中国による台湾進攻が迫り、その際日本を巻き込んだ戦争を危惧する風潮がある。

本書は「真におびえるべきは、事実を直視しないリアリズムの欠如である」と考えた著者が、冷戦終結後の米中双方の国の在りようからそれぞれの台湾政策を丁寧に分析した上で台湾海峡危機を考察している。加えて日本の安全保障上の脅威は中国のみならず米国の「内政化・不安定化」も脅威であるという斬新な視点に基づき、日本政府が行っている現実的な安全保障政策についても分析している。

ともすれば、在日米軍の存在や自衛隊と米軍との連携強化によって台湾有事において日本が米国の戦争に巻き込まれるというような短絡的かつ消極的な議論に終始しがちであるが、著者は日本政府が米国を巻き込む政策と米国に巻き込まれない政策を現実に即して使い分けつつ、日米それぞれの政策の狭間で苦労していることについても丁寧に説明している。

加えて本書はこれら分析にとどまらず米中衝突を回避するための提言も導出している。このような分析や提言は日本ではあまり接することのできないものであり、読者が我が国を取り巻く厳しい安全保障環境をより現実的な視点で考える際に多くの示唆を与えてくれるものと確信している。是非とも読んで頂きたい書である。

著者プロフィール

池田徳宏

元海将/富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社・安全保障研究所所長

元ハーバード大学アジアセンター シニアフェロー

   

  • はてなブックマークに追加