『なぜ倒産 運命の分かれ道』

「まさか、あの会社が!? 」粘り強い取材に脱帽

2025年3月号 連載 [BOOK Review]
by 井出豪彦(東京経済 東京本部長)

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『なぜ倒産 運命の分かれ道』

なぜ倒産 運命の分かれ道

著者/帝国データバンク情報統括部
出版社/講談社(本体1000円+税)

率直に言って、読んで愉快な気分になる本ではない。帝国データバンク(TDB)が発行する「帝国ニュース」で2021年6月以降に掲載された記事をベースに倒産事例が26社紹介されている。

倒産は当事者にとって悲劇だ。評者の知り合いの電材屋の社長はメインバンクに突然見捨てられ、首をくくって自殺した。サッシ屋の快活な2代目社長も倒産寸前に会ったとき別人かと思うほど人相が変わってしまっていた。

経営者というのはどんなに順調なときでも支払い期日に現金がちゃんとあるのか気にしているものだ。何らかの理由でそのぼんやりとした不安が現実の危機になるときがある。取引先に支払いを待ってもらわなければならない、銀行に頭を下げて再建計画を提出しなければならない、税金や社会保険料の納付を猶予してもらわなければならない、従業員に給料を払えないかもしれない……。火の車に追い立てられた経営者は次第に正常な判断ができなくなる。手塩にかけた会社が無に帰するというのはつらすぎる。

もちろん危機に際して底力を発揮し、事業を立て直す経営者もいる。一方で銀行に粉飾した決算書を提出してでもカネを引っ張ろうとする輩がいる。架空・循環取引や怪しげな手形操作に手を出して、多くの取引先を巻き込んでしまう輩もいる。悪事はいつか露見し、失った信用はもはや取り返しがつかない。本書で取り上げられるのは主にそうした例だ。TDBの情報マンは当事者が語りたがらないドラマを粘り強い取材で掘り起こしており、実に読み応えがある。同業者の端くれである評者も唸らされた。

我が国では昨年約1万社が倒産した。TDBの誇るデータベース「COSMOS2」に収録されている企業概要データは147万社分というから、これがペーパーカンパニーや休眠会社を除いた、リアルに経済活動している企業数と考えると、そのうち約0.7%が倒産した計算になる。もっとわかりやすくいうと、ひと学年の生徒数147人の学校があったとして、毎年成績最下位の1名が落第(倒産)するというイメージだ。

学校の場合、まじめに勉強していれば最下位になることはまずないが、現実は「まさか、あの会社が⁉」ということがある。本書で取り上げている「マレリHD」(元日産子会社)や「イセ食品」(森のたまご)、「FCNT」(らくらくホン)、「船井電機」(液晶テレビ)のように経営基盤がしっかりとしたはずの大手でも倒産する。企業人であれば読みながら自社や取引先の経営についていろいろ思いを巡らすことになるだろう。

著者プロフィール

井出豪彦

東京経済 東京本部長

   

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