『創価学会秘録 池田大作と謀略と裏切りの半世紀』著者/高橋篤史 評者/小川寛大
2025年2月号
連載 [BOOK Review]
by 小川寛大(「宗教問題」編集長)
この本に登場する池田大作(創価学会名誉会長・故人)は、常に何かに怒り、敵視し、そして戦っている。
最初の標的は、外部のライバル教団たる日蓮宗や、天理教、立正佼成会などだった。その次は宗教界の枠を超え、藤原弘達といった政治評論家、また日本共産党に矛先が向かっていく。遂に池田の怒りは、創価学会のもともとの上部団体だった日蓮正宗にぶつけられ、最終的には自らの“弟子”のはずであった、山崎正友や竹入義勝、矢野絢也といった元創価学会員たちとの抗争に突入。そういう闘争に次ぐ闘争の生を経て、池田は公の場に姿を見せなくなり、そして2023年11月15日に逝った。
創価学会とは言うまでもなく、日本最大の新宗教団体である。その事実上の政治部として連立与党の一角を構成する公明党の存在まで考え合わせれば、伝統教団まで含めて、創価学会以上の力を持った宗教団体は、この日本に存在しないと言っていい。池田大作とは、まさにそういう創価学会を自らの手腕でつくり上げ、そこに君臨していた絶対的なカリスマ指導者だった。恐らくあと数十年もすれば、かなり高い確率で日本史の教科書などに、その名前が載っていておかしくない人物だ。
一方で周知のように、池田および創価学会の名は、この日本において毀誉褒貶にまみれている。創価学会を暴力的なカルト教団とみなし、その指導者だった池田を、腹黒いペテン師、俗物のように指弾する書物などは、世にあふれている。率直に言って本書も、そうした池田の生を批判的に検証する一冊と言っていい。ゆえに前述したような池田の“怒りと闘争の人生”を、宗教家らしからぬ俗悪な95年だったと叩く内容のものだ。
もちろん、池田の人生にそういう面があったことは事実である。池田という存在が巨大であったからこそ、その生涯はプロパガンダ臭を排して、冷静に検証されねばならないものだ。本書はそうした過程において確実に大きな貢献をなしうる、重厚かつ詳細な一冊と言っていい。
宗教とは一般的に、友愛や平和を語り、他者との融和を主張する。しかし前述したように、池田の率いた創価学会とは、まさに闘争に次ぐ闘争を重ねてここまで来た団体だった。ただそれゆえにこそ、池田は創価学会員たちに“わかりやすい目標”を与え、組織をここまで拡大させることに成功したとも言える。
繰り返すように、本書とはそういう事実を前提に、「池田大作とは何だったのか」に鋭く迫った、池田という人物の“黒い履歴書”である。そして歴史上の真の巨人とは、そういう検証なしに記憶されることもない。
(敬称略)