「歴史好き」深層キャスターの離れ業
2020年8月号
連載 [BOOK Review]
by 樋口隆一(音楽学者)
温故知新(古きをたずね新しきを知る)とはよく言ったものだ。コロナ禍にあえぐ現代人も、百年前のスペイン風邪、いや六百年前のペストの大流行でさえ克服してきた歴史を知れば、多少は安心できる。
本書もこうした観点から歴史を学び現代の諸問題を考える試みのひとつである。著者は読売新聞オンラインで同名のコラムを連載しており、さらにBS日テレ「深層NEWS」のキャスターとしても活躍していたからご存じの読者も多いだろう。
話題はもちろん豊富である。「政治」の分野では、歴史上の偉人として人気も高い坂本龍馬が歴史の教科書から消えるかもしれないという話題から、参院選比例代表の「特別枠」と明治の行政区画の変遷との関係まで。「経済」のコーナーでは、軽減税率と、明智光秀が洛中の地子銭(現代の固定資産税)を免除して人気者となったという話。「スポーツ」では、大相撲の「土俵は女人禁制」問題を『日本書紀』に登場する女相撲を引き合いに出して論じるなどまさに縦横無尽である。
最近は一種の歴史ブームであらゆる問題に関する専門書が存在する。概して専門家は細かい考証には没頭するが、それを現代と結びつけることは得意ではない。現代の問題意識から出発して歴史に前例を求める視点は歴史好きのジャーナリストにしかできない離れ業なのである。
「深層NEWS」のキャスターとしての丸山氏は最適な証人を探し出すフットワークも持っていた。プーチン大統領と安倍首相との間で「北方領土」交渉が再開したとき、筆者は一面識もない彼からSNSで連絡をもらった。終戦時に札幌の第五方面軍司令官としてスターリンの北海道占領計画を阻止した祖父樋口季一郎について話を聞きたいという。会って話してみると、すでにその背景についてかなり調べておられた。そこで当時は未出版だった祖父の遺稿のコピーなどをお渡しすると、年末年始に猛勉強されたらしく1月末には「『スターリンの野望』北海道占領を阻止した男」というコラムができあがった。2018年1月28日には同名の「深層NEWS」が放映され、私もゲストとして出演させて頂いた。こんな離れ業を毎週のようにやってこられた丸山氏の情熱と好奇心には脱帽するばかりである。この情熱こそが、本書の魅力の根源にほかなるまい。
丸山氏は「聞き上手」である。出口治明氏とのインタビュー「『賢者は歴史に学ぶ』その理由」では歴史と現代に関する卓抜の発言を引き出して、読み手を飽きさせない。「グローバルな時代だからこそ、日本史を学ぶことが大事」という丸山氏の結論も適切である。(敬称略)