本気と覚悟が、ここにある! 評者 蓮舫
2021年7月号
連載 [BOOK Review]
by 蓮舫(参議院議員)
「この時間だと出ると思って」
枝野官房長官からの電話。東日本大震災対応時、内閣で食品安全を担う私への確認、指示はいつも朝6時前後だった。同じく双子を育てていることから、お互い朝が早いことを熟知した枝野さんらしさ。よく言えば時間を無駄にしない。逆に言えば、せっかち。
3.11以降、迅速で重い判断を迫られる立場にいた枝野さんは、より急(せ)いて生きているように見えた。
『枝野ビジョン』には官房長官の経験がリアルに綴られる。当時、培った政治判断の要が正常化バイアス。被害が悪化を続ける中でも正常な生活の延長と捉え、都合悪き情報を無視又は過小評価し、対応が後手になることだが、安倍政権、菅政権と続くCOVID‐19対策も、正常化バイアスに陥っていることを指摘、幾度も改善を求めてきた真の想いはこの本から読み解ける。政府の発信の一元化等、3.11を経験した元官房長官の具体的提案を軽視しなければ、命と暮らしの不安に今なおこんなに脅かされることはなかったと私も思う。
大きくなり、壊れる。小政党が乱立し与党を利する、そして再びの大きな政党へ。その中心を担った枝野さんが描く「支え合う日本」を読んでほしい。「野党は批判ばかり」とレッテルを貼るメディアにもぜひ。ここにはリアルがある。
官から民、小さな政府、新自由主義的「改革」はもはや目指す社会像ではなく、目指すのはすべての人が支え合う日本。すべての人が必要な時に必要な行政サービスを享受すると共に、公的サービス従事者を安定的に雇用する。それは、社会全体の安心感となり、格差拡大を抑制、経済社会全体も恩恵を受ける。
サービスに応じた長期的な負担も検討が必要だが、老後や失業の不安、格差拡大による貧困の不安を小さくすることで、すべての人の負担を軽減することこそが、少子高齢化や低経済成長といった「近代化の壁」を乗り越えられる、と。枝野さんが想い描くのは「お金などの物質的豊かさ自体でなく、この豊かさを通じた安心感や便利で快適なサービス、安定した仕事や生きがいを手にする」国。
私はもっとドロドロだったと回想するが、枝野さんなりの民主党政権の総括から、むしろあの経験が「次」に向けて不可欠と言う。率直な反省と確かな経験から「次」に向けた枝野幸男の本気と覚悟が、ここにある。
17年、議員として追いかけてきた背中を、総理大臣にしたいと強く思う。日本のために。
最後に、「カレーは飲み物」と食事にまでせっかちな面は改善を求める。誰よりも身体が資本な立場になる人だからこそ。