『平成金融危機』

金融再生、葛藤の軌跡を淡々と

2021年6月号 連載 [BOOK Review]
by 土谷英夫(ジャーナリスト)

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『平成金融危機』

平成金融危機

著者/柳澤伯夫
出版社/日本経済新聞出版(本体2,500円+税)

平成の不幸は、昭和から引き継いだ資産バブルが、冒頭ではじけたことだ。株価は平成元年(1989年)末の大納会の日経平均3万8915円をピークに、地価も丸一年後の91年初めに、天井を打った。

バブル崩壊の帰結の金融危機をしのぎ、不良債権を片付けるのに平成の前半が費やされた。金融再生の総仕上げ、ペイオフの全面解禁は2005年4月。平成で11人目の首相、小泉純一郎政権でようやく成った。

ニューヨーク駐在も経験した大蔵官僚で、政界入り後も財政金融に縁が深かった著者は、小渕恵三政権から森喜朗、小泉の3代にわたり、金融再生の担当相を3年弱(途中1年余のブランクを挟み)務めた。

 長銀、日債銀の国有化による破綻処理、銀行への公的資金注入、相次ぐ大銀行の合併と、疾風怒濤の時期。読む者は手に汗握る奮戦記を期待しそうだが、著者は、煩雑な制度論も押さえつつ、時系列に沿い淡々と筆を進める。平成史の探訪者には、必読の書になるはずだ。

金融再生は日本経済の死活的課題だが、行政の総力を結集できたわけではない。財金分離の大蔵省改革に次いで、橋本行革の中央省庁再編。政権もくるくる替わる。葛藤が渦巻く中での舵取りの苦労が、読みとれる。

ミクロの金融安定化の責を負った著者に、マクロ政策の権限は全くない。「橋本行革以前の旧大蔵省の体制の復活こそが必須なのではないかとも思った」という率直な告白もある。

「自民党をぶっ壊す」と小泉首相が誕生し、総裁選で別候補に入れた著者も、森前首相が強く押し、金融担当相に留まる。

小泉政権の出だしは株価が低迷し、政府内部や一部エコノミスト、メディアから、公的資金再投入による不良債権処理の加速を求める圧力が増した。

著者は、速水優日銀総裁の求めで会う度に、金融緩和効果が出ないのは不良債権のせいと、処理断行を促されたと明かす。

著者の立場は、不良債権は適切に処理されていて、銀行の資本にも余裕があり公的資金再投入は不要――だった。

小泉内閣の改造で、著者が金融担当相を解かれたところで本書はプツリと終わる。土砂降りの夕刻、議員会館自室に戻る車中で浮かんだ句を披露して。

秋天の 現れずして 帰庵する

後任は、小泉が学界から抜擢した竹中平蔵経済財政担当相が兼任した。不良債権処理強行の「竹中プラン」を断行し、やがて景気は回復した。本書に竹中への言及は一切ない。著者の「竹中論」が読みたかった。

ゼロ金利が今に続く。小泉政権下の景気回復も、梅雨の晴れ間だったのか。抜けるような秋天を見ずに、平成は終わった。

著者プロフィール

土谷英夫

ジャーナリスト

   

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