『米国とイランはなぜ戦うのか?』

衝突避けられぬ「構図」読み解く

2020年3月号 連載 [BOOK Review]
by 畔蒜泰助(・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェロー)

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『米国とイランはなぜ戦うのか?』

米国とイランはなぜ戦うのか?

著者/菅原出
出版社/並木書房(本体1500円+税)

年明け早々の1月3日、ドナルド・トランプ米大統領がイラン革命防衛隊の対外工作機関「コッズ部隊」のカーセム・ソレイマニ司令官の殺害を指令し、イラクのバグダッド国際空港に居た司令官が米軍の無人機攻撃で殺害されたとの衝撃のニュースが飛び込んできた。

イランの国民的英雄であるソレイマニ司令官の殺害は、同国からすれば米国による事実上の宣戦布告に等しい。イランによる反撃は必至であり、展開次第では米・イラン間の全面戦争勃発の可能性さえ十分にあった。

実際、1月8日未明、イランは16発の弾道ミサイルを米軍が駐留するイラク国内のアル・アサド空軍基地とアルビルという二つの基地に向けて発射した。だが翌9日、トランプ大統領は米軍に被害が出なかったことから、イランへの報復攻撃は行わないと発表し、全面戦争の危機は当面、回避された。

それでも危機の構図に本質的な変化がない以上、同様の危機が再発する可能性は十分にある。

本書は、国際政治アナリスト・危機管理コンサルタントであり、ノンフィクションライターとしての実績もある著者が、米・イラン間に横たわる深刻な危機の構図を丁寧に解きほぐしつつ、今回の一触即発の危機が勃発する過程を時系列で臨場感たっぷりに描いた好著である。

米オバマ政権時の2015年7月、米国を含む国連安保理常任理事国メンバー+ドイツ(P5+1)はイランとの間で同国の核開発問題の外交的な解決に向けた最終合意文書である包括的共同行動計画(JCPOA)を締結。米国は40年にわたるイランとの相互不信の連鎖を乗り越え、関係正常化に向け大きな一歩を踏み出したかと思われた。

だが、米国内の対イラン強硬派に後押しされた米トランプ政権は一転、18年5月、JCPOAからの一方的な離脱を宣言し、イラン産原油の全面禁輸を含む経済制裁をイランに科し、さらにはイラン国内の反政府勢力によるテロを扇動するなど、同国に「最大限の圧力」を掛け、事実上の「レジーム・チェンジ(体制転換)」を仕掛けている。

一方、政治的・経済的に追い込まれたイランは国内最強硬派の革命防衛隊が周辺国の米国並びに同盟諸国の施設へのテロ攻撃を繰り返すなど、米国の「最大限の圧力」に対して、「最大限の抵抗」を繰り広げている。

著者はいう。イランと米国は、このまま正面衝突する方向に互いに車を走らせるチキンレースを続けている。共にわずかにブレーキを踏んで衝突までの時間を遅らせたが、進む方向は変えていない。どちらかが進む方向を変えて妥協しない限り、衝突(戦争)は避けられないと。

著者プロフィール

畔蒜泰助

・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェロー

   

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