『成毛眞のスティーブ・ ジョブズ超解釈――誰でも簡単にクリエイティブ体質になれる方法』
2012年6月号
連載 [BOOK Review]
by A
スティーブ・ジョブズのような神格化されたアイコン(偶像)とどう付き合うか。ベタぼめで礼賛する、故人との関係を誇示する、斜に構えて批評する、とことんケナす、はなから無視する……。世に氾濫するビジネス書や自己啓発書も、どれかを選んで一稼ぎを狙っているが、競争も激烈なようで、パクリや便乗など何でもありらしい。
才人の成毛眞氏は毒をたっぷり含ませた「ケナシ」の手を選んだ。売りどころもよくわかっている。何せアップルの宿敵、マイクロソフト日本法人の元社長である。かつてウィンドウズ95でアップルを崖っぷちに追い詰めたこともあるから、ヒール役にはうってつけである。
過去の勝者が現在の勝者をどう裁くか、という興味で一飜(イーハン)ついたこの本、アマゾンのカスタマーレビューでは(計算どおり?)ボロクソ。うーむ、端倪すべからざる悪役ぶりである。が、成毛氏は友人でもあるから、肩入れしたくなった。彼は大の本好きで、ブログや雑誌などに多数の書評を書き、書評サイトHONZの代表でもある。「ちょっと褒めるのが書評のコツ」などと心得を明かしてくれたこともある。『日本人の9割に英語はいらない』『就活に「日経」はいらない』と、最近は逆張り路線を走っていて、もっと毒を効かせたのがこの本だ。
確かにのっけから「日本にジョブズは生まれなかった。これからも生まれないだろう」と挑発的だ。いくらジョブズに憧れても、日本で100万部(?)も売れたベストセラーの伝記を読むようなタイプは、クリエイティブな天才になれっこない。神話はその逆説に咲く徒花だ。
ははん、ジョブズはこの本のダシか。経済低迷で富の総量が減り、「均一で交換可能な労働力より、交換不可能な創造的人材に、価値の源泉が移っている」という残酷なデフレ社会の台頭を指摘したいのだろう。それを「創造性格差の時代」と呼び、ジョブズの猿真似で悦に入る連中を散々おちょくっている。
それにかっとするのは、富の偏在からあぶれかけ、せめて夢くらい壊すなと悲鳴をあげる「その他大勢」にすぎない。テスト氏の「自分ひとりでやるゲーム」のように、「自らが賞讃に値すると思えば、勝負は勝ち」という手前勝手ルールなのだ。
アップルの成功の秘訣であるプラットフォーム「iTMS」の息の根を止める秘策まで授けてみせる。強みは「ネットワーク外部性効果」だから、アップルとは逆にマージンをとらない音楽配信サービスをどこかが大規模に始めたら、プレステに駆逐されたファミコンのように衰亡するのは時間の問題だという。なるほど、猛毒のススメだ。
最後の2章はとってつけたような「仕事術」のハウツー仕立てだが、ビジネス書のパロディーという種明かしか。