2019年12月号
連載 [BOOK Review]
by 濱田敏彰(経済評論家、元財務省審議官・税務大学校長)
表題は「農政改革」だが、プロの日本の国家システム改革論だ。著者は大学の同級生、人となりも知っている。農水省の改革派エースとして信念を貫いた男ならではの快作だ。
表紙の帯に記された「成長産業化に必要なものは何か」強い既得権、しがらみが存在する産業領域をどう変えるのか――。農協改革など、数々の改革に携わった著者が自らの体験を語り、農業と行政の進むべき道を問う。2011年から5年間も農水省経済局長を務めた後、「農協改革の切り札」として事務次官に抜擢された奥原君は怖いものなし。先送りされてきた農業を巡る様々な懸案に如何に立ち向かい、突破したかが痛快だ。
成長産業化に必要な改革ターゲットは農業に限らず、今の日本の多くの産業にも当てはまる。ここが、この本の強みだろう。第2次大戦直後は我が国のGDPの半分近くを占めるトップ産業だった農林水産業が5%以下に萎む過程で、ありとあらゆる問題を抱え込んだ経緯は、容易に想像がつく。それは高度成長からバブル、失われた20年を越えて、現代の少子高齢化・成熟社会化の中で、次の成長モデルを模索する日本が抱える問題とシンクロする。
しかし、本書の圧巻は「奥原節」炸裂の終章「行政官の責任を果たすために」だろう。
奥原君は〈若手職員が留意すべきこと〉として「若いうちから、自分はこの課長になって仕事をやりたいというものを二つか三つ必ず持つ」「常に、自分が課長だったら、局長だったら、どう判断するかを考えることが大切で、その積み重ねで差がつく」と説き、「ポストはやりたい仕事を実行するためのもの」と喝破する。
続く〈管理職が留意すべきこと〉は、さらに痛烈だ。曰く「何をやりたいかが最も大切」「管理職は、問題意識と改革意欲を強く持ち、これを部下に見せることが重要」「管理職は、自分の所管する領域については、すべて見ておくことが必要」「部下の使い方は管理職次第」「残業が多いのは基本的に管理職の責任」「新しい仕事を始めるときには、従来の仕事をやめることが必要」と、けれんがない。
最後に自らへの戒めも忘れない。「国民の理解なくして政策なし」「状況が変われば、政策も変えるべし」「改革は最大の防御、弁解は自滅の道」「改革にはタイミングあり」「政策の良し悪しは、結果が判定する」「政策は単純明快がベスト」「規制は常に必要最小限に」と説き、「行政官は黒子に徹すべし、ただしプロの黒子であるべし」と締めくくる。
「男・奥原ここにあり」、改革派の面目躍如である。