「真のジャーナリズム」とは何か
2019年2月号
連載 [BOOK Review]
by 今井雅人(衆議院議員)
「私や妻が関係したということになれば、これはもう私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」――。安倍総理のこの発言(平成29年2月衆院予算委員会)から、森友問題の国会での追及が始まった。異常とも思える8億円もの値引き、他に例を見ない特別扱いの連続、ますます謎が深まる。その最中、安倍昭恵夫人が御付きの秘書に本件を照会させていたことが判明したが、総理ははぐらかして決して認めない。佐川宣寿理財局長(当時)は、事前の価格交渉はなかったと説明していたが、籠池泰典理事長と田村嘉啓・国有財産審理室長が売却金額の交渉をしていたことが明らかになると、「価格と金額は同じではない」という国会を愚弄する答弁で開き直った。そして、財務省による公文書の改竄、当時の担当職員の自殺と事態は悪化の一途を辿った。しかし、総理も財務相も、政治家は誰一人責任を取らない。私は怒りを込めて切り込んでいったが、事件発覚から2年が経つというのに、どうしても真相に辿り着けない。やるせない気持ちでいた時、本書と出会った。立場は違うものの、同じ思いを抱く人がいたと、引き込まれるように読み耽った。
本書では、森友問題についてのNHK内での取材、報道の様子が、実にリアルに描かれている。真相を解明しようとする著者と上層部との「暗闘」は臨場感に溢れる。本書の中に〈私が書いた元の原稿〉と〈デスクが書いた原稿〉の2例が掲載されているが、これを読み比べると、現政権に配慮し、内容を書き換えた疑いを拭えない。放送にあたっての報道局長との軋轢も圧巻だ。上層部が森友問題に関する報道に過敏になっている有り様が浮かび上がる。そして、遂に著者は記者を外され、NHKを退職する。かかる背景にはNHK幹部への総理のお友達の登用、衆議院選挙直前に自民党からメディア各社への圧力とも取れるFAX送付、政治的な公平を掲げた放送法改正の動きなどが影響していたのではないか。
本書で何度も取り上げられている籠池氏に真相を聞くため、私は他の議員と、彼の自宅を訪れた時のことを思い出す。それは想像以上に質素であり、とてもお金を騙しとろうとする輩の家とは思えなかった。その後、彼と何度も会ったが、嘘ばかりつく人とは、どうしても思えなかった。結局、彼は切り捨てられたのではないかと感じていたが、著者も取材を通じて同様の感想を持っていることを知った。
「森友事件」の抱える本質的な問題――。メディアはどうあるべきか。真のジャーナリズムとは何か。NHKと袂を分かった相澤さんの渾身の一冊である。