「義理と人情」こんな医者がいた!

『復興は現場から動き出す』

2012年10月号 連載 [BOOK Review]
by 立谷秀清(福島県 相馬市長)

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『復興は現場から動き出す』

復興は現場から動き出す
(著者:上昌広)


出版社:東洋経済新報社(1800円+税)


医師である著者とその研究室のメンバーは、震災直後から独自に福島の浜通り地区で支援や診療を続けている。本書はその過程を描き、未曽有の東北大震災と原発事故の混乱のなかで、行政は、人々は、どのように行動したのか、医療はどのようになっていったのか、を記録した、おそらく最も詳細なレポートである。同時に、危機管理について問いかける貴重な問題提起でもあり、そして、医療が日常生活のライフラインであることを雄弁に物語る証言である。

昨年の3・11の発災以来、われわれ相馬市は、多くの試練と向き合ってきた。被災直後、住民は混乱した。医療スタッフが流出、薬局も業務を停止した。その時々の判断が適切だったかどうかは後世の検証に委ねるとして、浅学菲才の私のようなものがこの非常時の指揮を執ってこられたのは、部下の職員たちが私の決断を信じて一丸となってくれたことと、世界中から支援の手を差し伸べていただいたお陰と感謝している。

相馬市役所には実に多くの方々がおいでになったが、ご厚意は有難くとも、支援の話の全てが有意義なものとはいえなかった。取捨選択をしないと、相馬市が振り回される心配があった。ちょうど2週間目くらいからは、政府関係者や国会議員、NPOや企業の方々の来訪が相次ぎ、私は被災住民の様子と対策の効果を観察するのと同時に、面談や電話で話をする相手にどこまで頼っていいものかの判断に神経を使った。

そんな時に著者から電話をいただき、やがて出会った。最初は豊富な知識と人脈の広さに驚いたが、一番感心したことは考え方の根底が浪花節、つまり「義理と人情」で出来ていることだった。「こんな医者がいたのか!」と思った。

以来、著者からは多くの情報、人的支援をいただいた。本書にはその一端も記録されている。著者の紹介でおいでになる方々も多かれ少なかれ人情に篤い人ばかりだった。

人類は、広島からはじまりチェルノブイリまでの経験のなかで、適切な対応論を積み上げる努力を怠ってきたように思う。それだけに、著者らの活動が人類にとっての大きな資産になることを願ってやまない。書き物には人柄が出るが、本書ににじみ出ているのはやはり「義理と人情」だった。手に取った読者にも、震災と原発事故後の対応を観察する著者の厳しくも温かい目と同じ高さで、被災地に寄り添っていただければと思う。

被災地は未だ復興途上にある。したがって本書は中間報告だろう。やがて復興が成った後には、特に原発事故に対する提言としての完成版を期待したい。 

著者プロフィール

立谷秀清

福島県 相馬市長

51年生まれ、内科医

   

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