『令和の「代替わり」 変わる皇室、変わらぬ伝統』

宮内庁記者が綴った「退位」の裏側

2020年7月号 連載 [BOOK Review]
by 小田部雄次(静岡福祉大学名誉教授)

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『令和の「代替わり」 変わる皇室、変わらぬ伝統』

令和の「代替わり」 変わる皇室、変わらぬ伝統

著者/吉原康和
出版社/山川出版社(本体1800円+税)

約200年ぶりの天皇退位と、これを受け継ぐ新天皇の即位までの諸儀式は、ひとつひとつ順調に進められてきたように見える。しかし、その裏面では、退位に対する賛否の様々な意見の応酬があった。また、即位儀式のあり方をめぐる意見の対立や調整もあった。東京新聞の宮内庁担当記者として、これらの一連の動きの現場にあった著者は、その裏面で起きた様々な問題に直面してきた。そしてこの体験を整理し、近代史上初の退位による代替わりの歴史を公正な立場で書き残した。

この代替わりの歴史でもっともインパクトがあったのは、平成の天皇が、その退位によせて、「象徴」の意味を具体的に述べたことであろう。国民の誰もが「象徴」の意味を深く考えたことがなかった。平成の天皇は、外に出て国民と触れ合う行動に、「象徴」としての務めの「心髄」があり、そのためには高齢となって活動に限界が見えてきた自分は退位して、「私の後を歩む皇族」に象徴としての務めを託したいと述べた。

こうして皇太子徳仁が皇位を継ぎ、新天皇となった。新天皇は平成の天皇の務めの踏襲を約束し、憲法に明記された国事行為はもとより、伝統儀式および「公的行為」とされる国際親善や被災地慰問への精力的な活動の継承を宣言した。そして体調が懸念される雅子皇后とともに、一連の儀式を順調にこなした。著者はこの間の出来事をたんなる事項の羅列に終わらせなかった。一連の出来事を追いながら、随所で奥深い知識をさりげなく挿入し、読者の理解をふくらませようとした。たとえば代替わり後、新天皇皇后と秋篠宮夫妻がそれぞれどのような「公的行為」を継承したのかを具体的に紹介し、図示した。また、一連の即位儀式では、平成の前例踏襲部分と令和の改革部分とを並記し、改革の根拠となった理念とその問題点を絵図もまじえてわかりやすく描いた。

ところで、著者も指摘しているように、突然の“コロナ”騒動で「立皇嗣の礼」が延期となるなど代替わり儀式は未完のままである。儀式のみならず、即位後の新天皇皇后や秋篠宮家の多くの活動も今年2月以降停止したままである。天皇誕生日の一般参賀も、令和初の園遊会も中止となった。新天皇は平成の「象徴」の踏襲を高らかに誓い、その第一歩を順調に進めたが、突然の事態を前に、その先への道へ踏み込めないでいる。国民と接することを「心髄」とする象徴天皇が、国民と接する機会を失っているのである。予期しなかった“コロナ”が皇室を大きく変えはじめている。今後、新天皇皇后は「象徴」としてどのような活動をするのだろうか。

著者プロフィール

小田部雄次

静岡福祉大学名誉教授

   

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