必読の警鐘「日本民族は絶滅危惧種」

『日本の少子化 百年の迷走 人口をめぐる「静かなる戦争」』

2016年1月号 連載 [BOOK Review]
by 小枝義人(千葉科学大学薬学部 教授)

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『日本の少子化  百年の迷走   人口をめぐる「静かなる戦争」』

日本の少子化 百年の迷走 人口をめぐる「静かなる戦争」
(著者:河合雅司)


出版社:新潮社(1400円+税)

少子化と人口減を放置すれば、2040年までに全国市区町村の半数900が「将来の消滅を避けられない状況」に陥るとした日本創成会議の「消滅可能性都市」の発表は記憶に新しい。本書は日本民族そのものが絶滅危惧種であることを眼前に突き付けた衝撃の一冊である。

我が国の少子高齢化が指摘されて久しいが、人口問題はもっともっと奥の深いものであると著者は指摘する。その淵源は明治以来、近代日本の歴代政権・旧軍の人口政策と、日露戦争勝利によってアジア唯一の列強となった我が国の人口増に欧米が脅威を抱いた時点から始まっていることをわれわれは知らない。

「産めよ殖やせよ」の富国強兵策から一転、敗戦後はGHQ(連合国軍最高司令部)の占領政策で、日本が二度と戦争の挙に出ないよう密かに産児制限という人口減政策を採用させるべく周到に政官民に働きかけた「静かなる戦争」の足跡も著者は丹念に史料を発掘し、一連の過程を白日の下に晒している。

「団塊の世代」と呼ばれる戦後ベビーブームがなぜたった3年で終焉したのか。本書によれば堕胎を合法化した優性保護法成立により人工妊娠中絶が容易になり、やがて医師の判断ひとつでいくらでも中絶可能になった結果だという。昭和32年に子供10人が生まれる傍らで7人が中絶されたという事実は、同世代として背筋が寒くなる思いだ。

家族計画という名の「産むな殖やすな」政策は高度成長時代と重なる。記述は近代史の裏面にも及び、移民という言葉が戦前は日本人の海外移住を指していたことにも気づかされる。読み進むうち、人口の増減こそ国際紛争や一国の盛衰を決定する最重要ファクターであることが理解できる構成となっている。

著者は産経新聞論説委員として、紙上や政府の有識者会議などで少子高齢化の現実を「静かなる有事」と名付け、警鐘を鳴らし続ける人物としてつとに知られる。いわば河合版「人口論」の集大成が本書である。

去る9月に自民党総裁再選を果たした安倍晋三首相は「人口1億人維持」を今後の政権運営の要に設定したが、そのハードルは恐ろしく高いという現実も本書は教える。傍観すれば西暦3000年に日本人はわずか1千人、日本沈没どころか日本消滅だ。絶滅危惧種たるわれわれ自身が危機感を共有しなければ、と著者は強調している。

出生数減少、高齢者増大、勤労世代減少の3大課題を解決する魔法の杖は存在しない。戦後70年の負の遺産反転には同じ時間以上かかるが決して諦めてはいけない。家族を築く楽しさ、子孫をつなぐ素晴らしさを再認識することだと、本書は結んでいる。全国会議員、全国自治体首長必読の書であると言いたい。

著者プロフィール

小枝義人

千葉科学大学薬学部 教授

   

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