動画サイトに「共存モデル」

2009年6月号 連載 [CHALLENGER]

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GyaO社長
川邊 健太郎

国内最大のポータルサイトを運営するヤフー・ジャパンが、事業構造の転換を図っているUSENから、無料動画配信事業の100%子会社GyaO(ギャオ)の株式51%を取得、今秋に「Yahoo!動画」と統合させることをめざして、弱冠34歳の川邊健太郎氏を新社長として送りこんだ。

GyaOもヤフー動画も、著作権者の許可を得る“合法”動画ビジネスである。だが、著作権侵害の不法画像が氾濫するユーチューブやニコニコ動画などの投稿サイトに押されて、赤字を脱出できなかった。

川邊氏は「ヤフー・ジャパンでも検索クエリー数の2割を映像関係が占めるようになり、ネットの画像シフトは日本でも抗えない趨勢」と見て、この分野をビジネスとして自立させる戦略性を強調する。

だが、黒字化は「容易ならざる事業」と川邊氏も認める。回線やサーバーに費用の3~4割が食われるからだ。これにコンテンツ調達費と人件費が加わるが、広告、課金、アフィリエイトなどの収入がまだ追いつかない。ユーチューブも年間450億円程度の赤字(クレディ・スイス推計)を垂れ流す状態で、親会社の検索最大手グーグルに支えてもらっているのが実情だ。

GyaOとヤフー動画の統合で、利用者は975万人(ネットレイティングス推計)と国内2位の動画サイト(1位はユーチューブ)に躍りでる見込み。川邊社長はスケールメリットだけでなく、新しいビジネスモデルを投入しようとしている。米国でNBCとFOXが組んで07年3月に設立した「hulu」(フル)――コンテンツのつくり手と、“貸し座敷”のサイト運営者が共存共栄していこうというモデルである。

これまで孫正義ソフトバンク社長のハッパもあってコンテンツを奪い合い、調達費(最低保証金=ミニマム・ギャランティ)の高騰を招いてコスト高になった反省が、そこにある。huluは売り上げの4割はコンテンツを供給したテレビ局や映画会社に支払い、2割を代理店手数料に、残る4割を自社でとる配分。タダ乗りで稼ぐのではなく、むしろ市場のパイを大きくして、フローの分け前をお互いに増やす。だから、他のサイトにも配信するほか、テレビとネットの広告のカニバリズム(共食い)も避ける工夫をしている。

しかしhuluは、NBCにしろFOXにしろ供給サイドのメディア・コングロマリットが後ろ盾で、一つのコンテンツをいろいろ使い回せる強みがある。これに対し、画像供給を外部に求めざるをえないGyaOやヤフー動画は、ネットの台頭に怯える既成メディアの敵意をほぐす説得力が必要になる。

川邊氏に白羽の矢が立ったのは、敵をつくらない幅の広さにある。96年にHPづくりの有限会社「電脳隊」を立ち上げ、シリコンバレーでネットと携帯ソフトの将来性を確信、そのソフトを売りに行ったのが縁で2000年にヤフーと合併した。

06年にヤフー「みんなの政治」サイトをスタート、記事だけでなく議員や法案をどう評価するかを投稿に開放、若者の政治意識を高めた。07年には、一日の視聴者が1千万人を超すヤフー・ニュースの責任者となり、1千万部を標榜する読売新聞を抜いて、日本で事実上一番読まれるニュースメディアとなった。読売、朝日、日経は読み比べサイト「あらたにす」で包囲網を敷いたが、ヤフーの開放性には歯が立たない。

その新聞の系列下にあるテレビ局は、敵視をやめて彼の共存モデルに乗れるだろうか。川邊氏は笑う。「ヤフーは敵じゃありません。ネットが敵ではないように」

   

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