火葬場の「タブーと真実」掘り起こす

『火葬秘史 骨になるまで』 著者/伊藤博敏 評者/長江曜子

2026年4月号 連載 [BOOK Review]

  • はてなブックマークに追加
『火葬秘史 骨になるまで』

『火葬秘史 骨になるまで』

著者/伊藤博敏
出版社/小学館
定価/1800円+税

現代日本は、年間死者数が160万人、出生数は60万人台の「多死・人口減少」社会を迎えている。死亡曲線のピークは2040年と言われ、その後は生涯未婚の男女の無縁死や、外国人の葬送問題を抱える時代が到来する。

常にそこには火葬場の問題が存在し、一見ご遺体の火葬が数量だけの議論になりがちだが、この著作は、日本の知られざる「葬送文化史」を抜群の現場取材力で調べ上げ、わかりやすく語っている。昨今注目を浴びた火葬場の争奪戦を起点に、葬送史におけるタブーと真実を掘り起こしている点で特筆すべきである。だからこそタイトルにある「秘史」だ。

「日本の常識は世界の非常識」とよく言われるが、葬送文化の格差に驚いたのは、1980年代半ばから91年の4年間ACAU(全米墓園協会大学)留学中だ。当時、全米平均の火葬率はなんと15%だった。「復活」のための遺体保存のエンバーミングと土葬が主流のアメリカの火葬率は、35年経った今も50%台にとどまる。宗教・民族・文化の違いが歴然としている。

著者は「葬儀と墓の在り方」を問い直すとして、冒頭から、上皇ご夫妻が「火葬」を選ばれた背景に迫る。古代から現代にいたる火葬と土葬が交差する天皇家の歴史を検証。上皇様の「家族意識」や国民への配慮にも着目している点がユニークだ。

特筆すべきは、東京の火葬場の実に約8割が民営会社によって運営されている点だ。著者は、圧倒的シェアを持つ東京博善の歴史を深掘りしている。

創業者木村荘平は、明治初期、牛馬解体業や火葬場経営、20人の妾の数だけ支店を増やした牛鍋屋「いろは」経営、リゾート開発、議員活動を行った。長女・曙は、父の反対で断念した英米留学と、女性のための保育所付き工場経営の夢を、初の女性新聞小説『婦女の鑑』に描き、20歳で亡くなった。

荘平没後の大正10年に、医師資格を持つ金杉英五郎が事業を継承。戦中戦後、高度成長期にかけて僧侶経営が続き、昭和60年、廣済堂の桜井氏に受け継がれる。令和に入り、オーナーは中国人実業家の羅怡文(ライブン)氏に変わり、火葬代金の値上げで批判を受けている。火葬場は単なる営利企業ではなく社会福祉の一環であり、公衆衛生上の重要な施設、災害時の重要なインフラと捉える自治体は、税金補填で無料や安価で火葬する。

火葬は単なる遺体処理ではない。命のバトンタッチの場であり、葬送文化を伝える場所でもある。本書は、「薄葬」化が進むデジタル時代にあって、有限の命を持つ人間にとっての「弔い」の意味をあらためて問いかける一冊である。

■評者プロフィール

 長江曜子
 聖徳大学生涯学習研究所所長、前日本葬送文化学会会長

  • はてなブックマークに追加