『調査報道の戦後史』1945-2025 著者/高田昌幸 評者/小俣一平
2026年3月号 連載 [BOOK Review]
縁とは不思議なものである。2009年、私が書いた調査報道の論文に北海道新聞にいた高田昌幸が「いちゃもん」をつけてきた。それは調査報道の定義についてのある大学教授の見解を、私が書いたと読み間違えてのことだった。高田が訂正と謝罪をしてきたのがきっかけで親しくなり、やがて私の後任の大学教員になった。
キチンとした調査報道史を書くのは、彼しかいないとずっと思ってきた。1990年代半ば、北海道東京事務所に端を発した官官接待の調査報道が、道庁全体ばかりか道警の裏金作りまでも白日の下に晒すことになった。その取材チームの中心人物が高田だった。地方紙記者の多くが生涯をその地で暮らす関係から、地縁、血縁、何らかの縁(えにし)がある。その因縁や桎梏を断ち切って報道して来た高田ならではの一家言、「ジャーナリズムには希望がある」が随所に書き込まれている。
敗戦直後から筆を起こし全9章にわたって年代別に扱っている。調査報道といえば文藝春秋の「田中角栄研究」と朝日新聞の「リクルート事件」が有名だが、事例は全国紙や通信社ばかりか地方紙の北日本新聞、新潟日報、琉球新報、愛媛新聞などにまで及ぶ。これは、『日本の現場 地方紙で読む』の長年の調査研究の蓄積のなせる業といえよう。このほか月刊情報誌FACTAや週刊文春、写真週刊誌FOCUSなど雑誌メディアにまできめ細かく目配りしている。さらにテレビ調査報道の白眉と言えるNHKスペシャル「日本海軍 400時間の証言」をはじめ、冤罪事件をスクープしたテレビ朝日の「志布志事件」やフジテレビ、山陽放送、富山のチューリップテレビなどのニュースやドキュメンタリーまで網羅している。TBS系列の人気ドラマ『VIVANT』が、共同通信の調査報道『陸自、独断で海外情報活動/首相、防衛省に秘匿 冷戦時から』などが構想のもとにあったとの下りに、そこまで調べ上げたのかと驚くと共にその労力に敬服した。
というのも高田は2020年に病に倒れ、入院、手術、通院生活と並行して教壇に立ち、ZOOMでも講義をする、まさに命を削る日々を送ってきた。その彼が病を押して昨年夏突然本書の執筆を始めた。引用資料件数は357点に及び、巻末の「150選表」は圧巻で、労作以外の何ものでもない。とにかくエピソードが豊富で読み物としても抜群に面白いのだ。
特に驚いたのは戦後最初に調査報道を手がけた記者こそが、我らの時代に仰ぎ見たジャーナリズムの旗手・大森実だったことだ。彼の若き日の活躍もぜひ
読んでほしい。(敬称略)
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