商工組合中央金庫社長 関根正裕氏(聞き手/編集長 宮嶋巌)

「新しい資本主義」こそ、ひた向き首相の本懐

2022年2月号 BUSINESS [トップに聞く!]

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1957年生まれ。早大政経卒。旧西武鉄道、プリンスホテルの危機管理対応を担い、18年3月より現職。商工中金の組織風土改革に取り組む。早大時代は「雄弁会」に所属。

――岸田首相と関根社長は開成高校の同期。しかも硬式野球部のセカンドとショートでした。

関根 まさかこうなるとは、感無量です。一番の思い出は、今から47年前の高2の夏。私(主将)が神宮球場で行われる予選のクジを引き当てたこと。試合は7回コールド負け(1対9)、岸田も私もノーヒットでしたが、神宮で公式戦をすることが、当時の夢でしたから、グラウンドの土を持って帰った(笑)。濃密だったのは春(伊豆)と夏(新潟・湯沢)の合宿です。OBの猛ノックに耐え、ひたすら練習に励み、帰りは宿舎まで5キロの道のりを走り込んだ。開成は部活動も中高一貫、中学生は丸坊主。「スポ根」でした。

――就任から3カ月の首相の手綱さばきをどう見ますか。

関根 野球に打ち込んでいた頃の誠実な人柄が、そのまま活きています。彼は不平不満や他人の悪口を言わない。当時から派手さはなくまじめでひた向きに練習するタイプでした。

思うに、目下の国難を乗り越えるには、政と官が一体となって迅速かつ的確に対応しなければならない。「聞く力」を自らの特長とする首相は「絶えずトップダウンでは国民の心が離れてしまう。絶えずボトムアップでは物事を決められない。この二つの使い分けが大事。これが、私の政治姿勢の理想」と述べています。結果、就任3カ月で霞が関の雰囲気は一変しました。彼の政権運営は、我々民間の経営とよく似ています。如何に組織を活性化させ、現場のモチベーションを高めるか。これまで官邸一強と言われてきましたが、各省庁の役人が活き活きと動き出しました。

――首相は官僚が積み上げた提案を受け入れる一方、「よくブレる」という批判もあります。

関根 民間経営の立場からすると、色々な意見に耳を傾け、最善を求めて柔軟に修正していくのは、むしろ当然と思われます。彼は「聞く力」を持つ新しいタイプのリーダーになると明言しています。より大切なことは、我々国民が知りたいと思っていること、疑問に思っていることを丁寧かつ徹底的に説明して、納得させて欲しい。

――「発射台(50%台)が低い」と揶揄された内閣支持率が60%台に上がってきました。

関根 「官邸主導=強い首相」を強調した安倍・菅両元首相に比べ岸田首相は地味です。「抑制的な権力行使」という宏池会の理念を受け継ぐ彼は強気一辺倒ではなく柔軟で手堅い印象を受けます。一方で、新変異株対策では「最悪の想定」のもと迅速果断に動いた。誰もが人生で経験したことがないコロナ禍に恐怖と苛立ちと疲れを募らせています。まじめで手堅い彼の持ち味が、じわじわと国民に伝わり安心感を与えたのでしょう。

――何を一番、期待しますか。

関根 経済の立て直しです。それにはビジョンが必要です。長期的視点や持続可能性に欠ける政策は、世の中に不安を生じさせ、経済活動はその分停滞を余儀なくされます。総裁選に再挑戦した彼が「新自由主義からの脱却」を唱え「新しい資本主義」を目指すと宣言した時、これが彼の持論であり、本懐だ。これがやりたくて勝負に出たと得心がいきました。「成長と分配は車の両輪。格差是正と中間層の復活こそが好循環を生み出す」と、何年も前から熱っぽく聞かされてきましたから。

(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)

往年の開成高校硬式野球部。前列左から3人目が「セカンド・岸田」、前列右から3人目が「ショート・関根」

   

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