──お客様と私たちの環境活動が日本を変えていけたら
2022年9月号 INFORMATION
今年6月より稼働した北電BESTテクノポート福井太陽光発電所。
日本政府は、2020年10月、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と、カーボンニュートラルを目指す宣言を行った。気候変動をはじめとする地球環境に大きな影響を及ぼす原因に、二酸化炭素(CO2)の排出がある。
政府宣言より1年以上早い19年5月、資源や環境を守るための環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を策定して、環境問題への積極的な取り組みを開始したのが、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイHD)。同社は、セブン−イレブン・ジャパンやイトーヨーカ堂、西武・そごう、ヨークベニマルなどを傘下にもつ小売業界のトップ企業である。
同社の井阪隆一代表取締役社長は、「気候変動への対応は、いまや世界的にも喫緊の課題」と表明し、同社グループはCO2排出量削減への取り組みを進めている。
屋上一面に太陽光パネルを設置したアリオ市原。年間発電量は、施設全体の電力使用量の約25%に相当する。
井阪社長の意を受けて、環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を実行するための経営推進本部サステナビリティ推進部シニアオフィサーに抜擢されたのは、釣流まゆみ執行役員。西武百貨店(現㈱そごう・西武)に入社後、大津店店長などを経て、19年3月、グループ内を横断してサステナビリティ(持続可能性)を推進する現職に就いた。
「サステナビリティ推進部を立ち上げると同時に、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を発表。2050年に目指す目標を設定し、その達成のために4つのプロジェクトチームを作り、各チームのリーダーはグループの事業会社の役員クラスの方にお願いしました」(釣流執行役員。以下、同)
その4つのプロジェクトとは――。
①CO2排出量削減
②プラスチック対策
③食品ロス・食品リサイクル対策
④持続可能な調達
これらのうち、①は脱炭素社会、②と③は循環経済社会、④は自然共生社会の実現をおもな目的にしている。
中でもCO2排出量削減は、井阪社長が触れたように「喫緊の課題」である。セブン&アイHDは、CO2排出量削減の具体的な目標として、グループの店舗運営にともなう排出量(2013年度比)で、「2030年目標/50%削減▼2050年の目指す姿/排出量実質ゼロ」を掲げている。
セブン&アイグループのCO2排出構成(2019年度データ)は、電気(95.2%)がほとんどを占めている。そこで、CO2排出量削減のために、「省エネ、創エネ、再エネ調達」の3つの柱を立てた。
「『省エネ』は、LED照明の導入を積極的に行っています。しかし、照明の電気量は、全体から見れば数%とわずかです。もっとも多いのは、冷凍庫や冷蔵庫の電気です。そこで、セブン−イレブンでは、スマートセンサーを設置して、“電気の見える化”を行っています。加えて新たな省エネ設備を積極的に採用することで、青梅新町店では、電気使用量43%減、CO2排出量54%減を達成しています」
また各店舗では、「お店でできる環境対策」(省エネ対策重点6項目)を実施している。家庭でも参考になるので、家電製品に置き換えて紹介する。
[冷凍冷蔵庫]扉の開閉時間は短く。冷気吹き出し口を塞がない。放熱板周辺のホコリを取る。適温で使用する。
[エアコン]週に一回はフィルターを清掃。
[照明]こまめに消す。
「創エネ」は、店舗の敷地内で発電して“自産自消”する。
「セブン−イレブン2万店舗以上の半分弱に当たる約8800店の屋根に、太陽光発電の設備を設置しています。太陽光発電はスタンドアローン型(独立型)の店舗でしか設置できませんが、神奈川県内の10店舗は、高性能太陽光パネルやリユースバッテリー等を活用して、再生可能エネルギー100%を実現しました」
「再エネ調達」は、オフサイトPPAというスキームを採用し、発電事業者が遠隔地に再生可能エネルギー発電所を建設し、その発電分の電力を長期間契約して使用する。
「昨年、NTTさんに、千葉県内に2か所の太陽光発電所を建設していただき、その電力を専用使用する20年の長期契約を結びました。新設発電所と、NTTさんがすでに所有されているグリーン発電所からの再エネを供給していただくことで、イトーヨーカドーのアリオ亀有とセブン−イレブン40店舗は、100%再生可能エネルギーによる店舗運営が実現しました。今年は、北陸電力さんに新たな太陽光発電所(福井県坂井市)を建設していただいて、セブン−イレブン約300店舗への電力供給が開始されました。こちらは年間3150tのCO2排出削減を試算しています」
プラスチック対策については、グループ2000店舗にペットボトル回収機を設置。回収したペットボトルを100%再利用した完全循環型ペットボトルリサイクルも実現。ペットボトル回収機は、毎年1000台ずつ増設する予定という。セブン&アイHDの資源や環境を守る活動は、イトーヨーカドーで牛乳パックの回収を始めてから30年以上の歴史がある。
釣流まゆみ執行役員
ペットボトル回収機は、セブン−イレブンやイトーヨーカドーなどに設置されている。店舗には、大きな袋にペットボトルを一杯入れた人が次々にやってくる。きれいに洗ってフィルムやキャップを外したペットボトルを、幼い男の子が「ぼくが入れる」と回収機に入れている姿は微笑ましかった。
釣流執行役員は環境対策への思いを話す。
「私たちだけが環境対策をするのではなく、お客様にご理解をいただいて、地域のお客様とともに環境に負荷をかけない活動を進めたいと思っています。お客様と私たちの活動が、ほかの企業にも広がり、日本全体が変わっていけば、とても嬉しく思います」
(取材・構成/編集委員 河崎貴一)