血圧計ぐらい簡単に「睡眠測定」
2020年8月号
LIFE [ヴィジョナリーに聞く!]
1961年兵庫県生まれ、58歳。87年東大大学院農学部畜産獣医学科を修了し中外製薬に入社。プライスウオーターハウスクーパース・コンサルタントなどを経て2005年カイオム・バイオサイエンスを設立。17年株式会社S’UIMINを設立、代表取締役就任。
――なぜ今、睡眠測定を。
藤原 睡眠障害が大きな社会問題になっていますが、現在睡眠の状態を把握するのに一般的なのは病院で実施するポリソムノグラフィー(PSG)です。PSGは、一晩入院しなければならず、機器装着に小一時間かかります。検査自体もとても寝た気にならないようなもので、いつも眠い睡眠時無呼吸症候群の方は測定できますが、不眠症の方に「この装置を着けて今から寝て下さい」と言うのは無理があります。さらに、PSGで取られた眼球運動や顎のオトガイ筋の動きや脳波といったデータは、臨床検査技師によって一晩の睡眠を30秒単位で区切った睡眠経過図に加工され、その経過図から医師はノンレム睡眠とレム睡眠のパターンを読み取って睡眠時無呼吸等の病気があるかどうかを判断しているのですが、経過図作成には3時間以上かかり、作成者によって一致しないなど精度が上がらない問題があります。
――御社の機器の仕組みは。
藤原 シール状の電極を額と両耳の後ろの硬い部分につけ、デバイスと繋ぎます。寝る前に開始ボタンを押して、あとは寝て起床時にボタンを押せばそれだけです。そこで取得した脳波データをクラウドサーバーに送れば、AIが瞬時に睡眠経過図を作成し、さらに20以上の項目の睡眠データを生成していきます。1週間連続で測定し、健康診断のようにA~Eの5段階で評価したレポートをお渡しします。C、Dの方には改善を推奨し、Eの方には専門医への受診を勧めます。また、異常が見つかればその日から酒の量を減らす、運動するなどちゃんと寝られる行動を3カ月間続けていただき、もう1週間取ってみて前回はDだったのが今度はBだったと、家庭用の血圧計と同じような使い方をしていただければ良いと考えています。貸し出しの形で8月下旬から寝具や機能性食品などの研究開発を行う企業向けにサービスを開始し、来春、本格稼働する予定です。
――今後、我々の睡眠は?
藤原 現在の診断ガイドラインに基づく診療では、「眠れないので睡眠薬を下さい」と言うと処方薬が出されるケースが多いです。患者の主観は大事ですが、本当は寝ているのに寝ていないと誤認する場合もあります。我々は、こうした方が薬漬けにならないよう、問診イコール診断で薬を出すのではなく、問診のあとに客観的な睡眠検査を挟み、その上でしかるべき対応を取るべきだと考えます。そのためにも、多くの方に弊社のサービスをご活用いただき、得られるデータから自動で睡眠障害を診断できるプログラムを作り、睡眠医療に新たな常識をつくっていきたいと考えています。
(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)