中高年の「夜逃げ多発」に泣くアパート大家

2017年7月号 DEEP
by 吉松こころ(住宅ライター)

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「夜逃げが増えている」

賃貸住宅を管理する複数の管理会社の声だ。「ここ1年くらい、特に増えているように感じる」と話す。

東京都内で約1万室の賃貸アパート・マンションを管理する企業では、1カ月に平均3件、多い月では5件の夜逃げが発生しているという。全体から見れば少数に見えるが、「ほとんどなかった夜逃げがひと月に何件も起きるようになった」というのが現場の実感。逃げた入居者の多くは50代後半から60代以降の男性だという。

入居時から職業が変わっている場合もあり、「夜逃げした時の仕事を正確に知るのは難しい」と管理会社の社員はいう。しかし、夜逃げがもっとも多発しているのは家賃2~4万円のアパートであることから、定職についていないか、派遣社員やアルバイト、年金生活者が多いと推測される。

「景気がいいといっても給料が上がっているのは大企業だけ。中小零細はそんな実感とはほど遠く、リストラや倒産で急に家賃が払えなくなる人もいます」(賃貸管理会社社員)

実際、個人の自己破産数は2016年に6万4637件と、13年ぶりに増加に転じている。ピークを記録した03年の24万2357件と比較すると4分の1程度に過ぎないが、当時は消費者金融の貸付が非常に多かった時期。その後、金融業者への取り締まりが強化され、過払い金請求が身近になり、自己破産件数は減少傾向にあった。

自己破産が増えた理由について、東京商工リサーチの友田信男常務取締役は「公共料金や社会保険、税金の値上げがじわじわと影響してきている。以前と異なり駆け込み寺的な消費者金融がなくなり、銀行系のカードローンにはまって二進も三進も行かなくなる人が出てきているのも一因では」と語る。返済にある程度融通が利いた昔のサラ金と違い、銀行系ローンは待ったなし。それでいて電話口では次から次に追加融資を誘いかける。結果、収入とのバランスが崩れ一気に転落するケースが顕在化してきたと考えられる。

ひとたび夜逃げが発生すれば、安い賃貸アパートであっても大家が被る影響は大きい。前述の管理会社社員によると、未収家賃による収入減に加え、原状回復のリフォーム代、室内に残された荷物や家財道具の撤去費用、明け渡しや訴訟に関わる費用など、ワンルームでも50万円前後の負担が大家側にのしかかる。また夜逃げ後もいつ帰ってくるかわからないため荷物を保管しなければならず、その倉庫賃料も大家負担だ。

「入居者が精神的に追い詰められ、室内がめちゃくちゃになっているケースもある。その場合、リフォーム費用は100万円を超える」(賃貸管理会社)

夜逃げが起こる賃料帯は決まっているため、同じ物件内で2度3度と起こることもある。古い木造アパートの場合は次の借り手も容易には見つからず、家賃収入はストップ。その状態で負担増が続けば、今度は大家業自体が立ち行かなくなる。

入居時の審査を厳しくすると入居率低下につながるため、あまり狭めたくないというのが不動産会社の本音。相続対策のアパート供給過剰で空室リスクも高まり、大家の左うちわは今や遠い過去の話となった。

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吉松こころ

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