テレワークで「国会答弁」「働き方改革」隗より始めよ

世耕 弘成 氏 氏
経済産業大臣

2017年7月号 POLITICS [インタビュー]

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世耕 弘成 氏

世耕 弘成 氏(せこう ひろしげ)

経済産業大臣

1962年生まれ。早大政経卒。NTT入社。ボストン大学で修士号取得。98年参院和歌山選挙区初当選(現在当選4回)。総務大臣政務官、内閣官房副長官などを歴任。16年8月現職に初入閣。祖父は近畿大学の創設者、世耕弘一氏(元経企庁長官)。自らも近畿大学第4代理事長を務めた。

――大臣就任以来「働き方改革は経産省から」とハッパをかけてきました。

世耕 「見栄えの良いパワーポイントの資料」をいくら作っても、経済は良くならない。本質に迫って、実際に世の中を動かすことを、職員一人一人が意識しなければ物事は進まない。我が国には長時間働いたほど働いた気になる精神構造が、今も根強く残っています。「隗より始めよ」の精神で、経産省の働き方改革を、世の中に浸透させたいと思いました。

――かつて「通常残業省」と呼ばれた通産省は灯りが消えたことがなく、国会開会中は徹夜作業が当たり前でした。

世耕 まず私の周りから深夜残業をなくすため「国会業務の効率化」を断行しました。具体的には、国会答弁の作成を、夜10時半までに完了させ、それを夜11時までにサーバーにアップし、秘密保持が徹底したセキュアな端末で見ることができるようにせよ、と命じました。夜の懇談を終えて帰宅した私は11時以降に約1時間をかけてタブレット端末で、その内容を確認します。それで終わりです。

――国会開会中の霞が関では、担当職員は朝6時前、大臣は7時前に登庁して、「答弁勉強会」を行うのが通例ですが……。

世耕 ロジックやデータが甘いところは朝、秘書官にメールで指示し、補足させ、早朝からの勉強会は止めました。

国会業務の効率化で「残業3割減」

――徹夜作業だった答弁作成が、夜10時半までに全て完了できるものですか。

世耕 実は去年の臨時国会では夜10時半までに完成した答弁はわずか11%でした。作業が遅れた担当者から事情を聴いた後、極力無駄な仕事を省き、10時半の時間を守れと、指示を徹底させた。今ではほぼ100%の完成率になりました。

――まさに「為せば成る」ですね。

世耕 実は昨年度、国会答弁作成を人工知能(AI)が支援する実証事業も行いました。過去の国会会議録をAIに学ばせ、意味の類似する単語や回答を検索・分析して、関連するやり取りを表示し、ゆくゆくは答弁作成を自動化する目論見でしたが、試作システムでは、関連性の低いものも含め多数の結果が表示されてしまうため、うまくいきませんでした。とはいえ、テレワークの実践により国会業務に関連する深夜残業と早朝登庁の必要がなくなり、担当職員の残業は3割減りました。背景には、自宅で確認・待機用として、1500人分のアプリを導入したことがあります。これは経産省が推進する自宅での「テレワーク勤務」と連動した取り組みです。昨年、管理職に「体験テレワーク」を義務付けたところ、3年前は18人だったテレワーク実施者が一挙に979人に増えました。テレワークの利用促進は、育児をしながら活躍できる環境創りにも役立っています。「女性職員が活躍できる環境になっている」と感じている経産省の職員が1年前より10ポイント増え、74%になりました。

――「強制労働省」と揶揄される厚労省は7月から年に1回以上、午後8時に庁舎を一斉消灯する日を作るそうです。

世耕 我々は2月から始まった「プレミアムフライデー」を、経済団体とタッグを組んで定着させたい。午後8時一斉消灯より午後3時一斉退庁のほうが、皆さん楽しめるんじゃないですか(笑)。

――2月に省内全ての執務室を日中でも施錠したため、「異常な報道管制」などと、マスコミの袋叩きに遭いました。

世耕 個別のリークがあったとか、全く関係がありません。知り合いの経済人から「経産省のガードは入り口だけ。後はオールフリーとは如何なものか」と、忠告を受けていました。対米・対ロの経済外交や事業再編、中小企業の下請け取引などに関する機微な情報が漏れたら取り返しがつかない。ちなみに経産省庁舎への1日の入場者は約2500人。財務省約600人、外務省約200人と比べものにならない。面談スペースは31カ所あり、取材対応を含む外部とのコミュニケーションが後退することはない。セキュリティ強化を止める考えはありません。

「改憲論議」どっちつかずの民進党

――安倍首相の憲法改正提言を受けて、改憲論議が高まってきました。

世耕 議員個人として申し上げるなら、まず各党が改憲したいのか、したくないのか旗幟鮮明にすべきです。改憲をめざす自民、維新、公明の3党は、どこをどのように変えるのか、それぞれ考えをまとめ、具体案を示そうとしています。一方、改憲したくない共産、社民両党の主張は分かりやすい。どっちを向いているのか、わけがわからないのが民進党です。もし、改憲したいなら、何らかの具体案を示し、議論のテーブルにつくべきです。いちばんナンセンスなのは、安倍政権のもとでは改憲に応じないという、岡田克也前代表らの主張です。憲法改正は衆参両院3分の2の発議を受け、国民投票で賛否を決するもの。安倍政権でなくなったら、民進党は同じ改憲案でも反対から賛成に回るのでしょうか。改憲をめざす各党が具体案を持ち寄って、極力多くの政党のコンセンサスを得て発議するのが、改憲の王道だと思います。

――関西出身の世耕大臣は大阪万博の旗振り役。ライバルのパリに勝てますか。

世耕 立候補の締め切り当日(5月22日)にロシア中央部のエカテリンブルクとアゼルバイジャンの首都バクーが名乗りを挙げ、四つ巴の戦いになりました。大阪vsパリが本命とはいえ、エカテリンブルクは過去に立候補したことがあり、戦術を練り直さなければなりません。

――世論の盛り上がりが欠けています。

世耕 日本の立候補表明は4月24日。6月14日にパリで開かれる博覧会事務局の総会が、加盟国に対する初のアピールの場になります。安倍首相のメッセージに始まり、大阪万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を、映像も交えて力強く訴えます。2025年万博招致委員会の会長に就任した榊原定征経団連会長が英語でスピーチ。あらゆるものをインターネットに繋げる「超スマート社会」のビジョンを紹介します。加盟国の投票で開催地が決まるのは来年11月。安倍政権には東京五輪を勝ち抜いた実績とノウハウがあります。戦いは始まったばかり。国民世論が盛り上がるのはこれからです。(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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