登録内容の変更新規オンライン会員登録会員サービスについて

格差歴然 新聞52社「ボーナス一覧」

「日経」が「朝日」を抜き日本一に。「毎日」「産経」「時事」は凍え死に。ブロック紙と地方紙も勝ち負けがくっきり。

2008年1月号 [「マスコミ志願者」必読]

ここに示した新聞各社の冬のボーナス(年末一時金)一覧表は、マスコミが報じないため、まずお目にかかれないものだ。朝日、毎日、読売、日経の大手紙(産経は非加盟)と、各地のブロック・地方紙の労働組合が加盟する産別組合、「新聞労連」の内部資料に、本誌の独自取材を加えた。とくとご覧いただきたい。

本誌は全国紙の都道府県別発行部数一覧(07年7月号)や、主要50雑誌の販売部数激減ぶり(同8月号)など、わが国マスメディアの知られざる実像を報じてきたが、今回はその第3弾。新聞各社の「懐具合」がつぶさに分かる(関連記事:特集「メディアの深層」)。

新聞記者を目指すご子息を持つご両親。「冬の時代」と言われても「腐ってもマスコミは高給」などと幻想を抱くなかれ。新聞業界も勝ち組、負け組がくっきり。しかも勝ち組にも木枯らしが吹き始めている。

「3大紙」と言えば朝日、毎日、読売というのが長らくニッポンの常識だった。しかし、本誌7月号が指摘したように、毎日はすでに日経にその地位を奪われている。10月の「ANY」提携会見しかり。朝日(A)、読売(Y)は毎日(M)ではなく、日経(N)をパートナーに選び、3社長揃い踏みで電子メディアや販売などでの提携を発表した。

日経は30歳で126万円!

ボーナスの額を比べると歴然である。表で「回答額」とあるのが各社の冬のボーナスだが、毎日の回答額は35歳モデルで100万円を切る87万円。一方、日経は30歳モデルで126万6千円と、年齢差を無視した単純比較でざっと40万円、年齢差を考慮した実質格差は50万円近くに達する。

ちなみに新聞労連非加盟の産経も、夏期は37歳で84万3千円と毎日並みだった。一般の大企業の今冬ボーナスが平均82万円(日本経団連調べ)。それに比べて毎日、産経が低水準とはいえないが、新聞業界というムラ社会では、朝日、読売、日経の「勝ち組」と、毎日、産経の「負け組」にくっきり分かれている。

勝ち組の中では、日経の40歳171万7千円が頭ひとつ抜け出した。朝日の41歳167万5千円を上回り、30歳での数字も126万6千円と、読売の同年齢117万5千円を上回っている。

「今冬の最大の話題は、名実ともに日経の首位奪取。日経の30歳支給額が共同の39歳と肩を並べた。30歳モデルで126万円というのは、驚異的なレベルだ。かつては朝日が断トツだったが、部数減、広告減の二重苦で日経の後塵を拝することになった」――大手紙労組の幹部はこう解説する。

ただし、朝日の場合は、別に社外秘の「リフレッシュ手当」なる一時金があるともいわれる。さらに、残業代を含まない月次の本給および家族手当などからなる「基準内賃金」(いわゆる基本給)をベースにして見ると、日経は「3.57」カ月分、朝日は「3.22」カ月分。つまり、月給では依然、朝日が首位だ。

中京圏のガリバー紙である中日新聞の子会社である東京新聞も、40歳で134万5千円と、それなりにいい数字だ。同紙はかつて「都新聞」といい、文芸などに独特の強みを持つ東京ローカル紙だったが、経営難から中日に買収された。旧東京社員は悲哀をなめたが、待遇はすこぶるよくなった。

通信社では、共同通信が39歳で126万9千円と、大手紙のやや下につけているが、時事通信は30歳モデルで68万7千円と毎日、産経よりさらに苦しい。記者クラブに夜遅くまで居残って「アルバイト原稿にいそしんでいるのが時事。次いで毎日、産経」と揶揄される所以だ。

新聞社「冬のボーナス」一覧
年齢基準内
賃金
(注1)
要求額
(注2)
回答額前年比回答額÷
基準内
全国紙
朝日新聞41歳519,6701,675,2971,675,297-6,4543.22
毎日新聞35歳345,7001,000,000870,10763,5402.52
読売新聞30歳1,230,0271,175,539-10,667
日本経済新聞30歳361,1051,306,8321,266,639-25,2693.51
40歳481,2671,752,6181,717,468-35,0483.57
共同通信39歳457,6921,454,3001,269,000-7,0002.77
時事通信30歳273,310859,930687,2815,4722.51
ブロック・地方紙
北海道新聞39歳400,5911,460,0001,395,000-21,0003.48
東奥日報*40歳425,0971,350,0001,145,000-25,0002.69
デーリー東北37歳305,345927,774681,140-23,9972.23
岩手日報35歳356,6671,229,5501,064,494-25,6162.98
秋田魁新報37歳373,4021,210,0001,015,000-100,0002.72
山形新聞38歳392,8061,300,0001,000,000-150,0002.55
河北新報35歳434,2001,111,0421,086,290-8,1502.5
福島民友37歳253,7281,300,000820,819-5,4193.24
茨城新聞38歳273,971547,942330,000-2,0641.2
下野新聞38歳361,6021,180,0001,018,144-36,8102.82
上毛新聞41歳357,9951,229,3551,045,0007,0002.92
埼玉新聞*38歳460,000
千葉日報42歳1,000,000530,00016,000
東京新聞*40歳387,3751,986,1251,345,387-14,0903.47
神奈川新聞41歳353,8421,100,000921,00013,3002.6
新潟日報35歳416,7681,455,0001,336,020-39,7003.21
信濃毎日新聞30歳1,124,7221,035,722-10,131
長野日報38歳500,000325,00015,000
北日本新聞36歳1,134,0001,134,000-2,000
福井新聞35歳1,442,7501,017,909-32,787
京都新聞35歳452,8101,032,000982,00002.17
奈良新聞30歳400,000185,7993,058
山陽新聞35歳400,2201,650,0001,220,000-30,0003.05
中國新聞35歳455,3601,269,7711,124,522-2,3362.47
山陰中央新報35歳316,7201,222,0001,130,000-3,0003.57
愛媛新聞35歳364,6401,280,0001,214,349-17,3203.33
徳島新聞35歳369,4001,408,7141,322,528-28,1643.58
高知新聞36歳348,8441,330,0001,222,015-13,7003.5
四国新聞42歳417,5301,352,5901,084,535-39,3532.6
西日本新聞35歳1,073,3771,033,655-28,703
佐賀新聞35歳281,6991,121,273947,5222,8173.36
長崎新聞35歳277,2001,320,000800,400-46,1002.89
大分合同新聞35歳346,5601,365,2401,087,424-21,2313.14
宮崎日日新聞35歳388,1501,500,8951,247,642-46,5973.21
熊本日日新聞30歳270,9001,136,2811,100,105-38,3364.06
南日本新聞35歳471,8201,341,3001,135,625-97,5562.41
南海日日新聞44歳242,110968,440726,3327,3953
琉球新報41歳290,8941,001,788757,922-48,2902.61
沖縄タイムス38歳267,5591,252,677795,118-18,8362.97
専門紙・スポーツ紙
日刊工業新聞*35歳282,000446,600356,62045,6201.26
報知新聞35歳315,2001,245,700957,680-8,4003.04
スポニチ新聞39歳364,0221,039,644987,6622.71
日刊スポーツ新聞35歳1,314,8211,301,229-13,557
化学工業日報35歳304,400864,750648,50535,0752.13
神戸デイリースポーツ35歳363,8001,059,226880,821-3032.42
朝日学生新聞39歳349,1751,094,4751,039,4732.98
*は12月上旬の時点でまだ経営側が未回答あるいは妥結せず回答が確定していない労組。
(注1)基本給や扶養手当、通勤手当、住宅手当など、原則的に毎月金額が変動しないものを指す。多くの組合は、ボーナスについては例えば「3.5カ月分」といった形で、経営側に要求を出す。一方、裁量労働手当、残業手当や休日出勤手当は基準外賃金にあたる。朝刊の締め切りまで働くため労働時間が長い新聞記者の場合、この基準外賃金が通常の業種に比べ、大変多いのが一般的だ。
(注2)新聞労連は、冬のボーナス闘争について、傘下の労組に対し、10月29日から11月1日を第1次統一行動日と指定し、要求書を提出するように指示している。その際の労組からの要求金額が「要求額」。統一回答日を11月8、15、22、26日と指定しており、交渉次第で第3次、第4次と回答数を重ねることも多い。本誌が読者の手元に届くころには、相当数の新聞社では冬のボーナスが確定しているとみられる。

逆に低額回答を探してみよう。

茨城新聞(38歳、33万円)、千葉日報(42歳、53万円)、奈良新聞(30歳、18万5千円)の低さが目につく。また年末は回答が間に合わなかったが、埼玉新聞は夏期が38歳モデル12万3千円と、にわかに信じ難い金額だった。

この新聞は1944年創刊、熊谷や秩父など埼玉県北部を地盤とする地方紙だが、2002年に親会社の不動産会社「地産」が倒産し、経営が大きく傾いた。今年に入り、経営再建のため、県庁や市役所に近い浦和地区にあった土地、社屋を売却し、遠く離れた大宮地区への移転を決めた。40代以上の社員に希望退職を募り、計画通りの応募があったのはいいが、それを上回る退職者が出る始末。労組幹部は「社員は展望を失っている」と嘆く。

こうした東京、大阪の隣接県は都心に通勤する住民が多く、「千葉都民」「埼玉都民」「奈良府民」と呼ばれて朝日、読売、日経などの大手紙が強い地域。地方紙が青息吐息なのも無理もない。

その一方で、全国紙と互角に戦う体力があるブロック紙は、経営が安定している。

北海道新聞は39歳モデルで139万5千円。中日新聞は新聞労連非加盟のため不明だが、子会社の東京新聞の水準から察するに、かなりの高レベルであることは間違いない。九州一円をカバーする西日本新聞は35歳モデルで103万3千円とやや見劣りするが、東京、名古屋に続く人口増加都市・福岡市を押さえ、経営体力は十分だ。準ブロック紙である中國新聞も35歳モデルで112万4千円と、広島の会社としては飛び抜けて高い。

忘れてはならないのは、県紙の知られざる大健闘ぶり。最も高いのは徳島新聞。35歳モデルで132万2千円というのは、日経、読売と勝負できる高水準だ。答えは簡単。本誌7月号でお伝えしたように、徳島新聞は県内シェアの8割を押さえるガリバーゆえだ。徳島新聞の労組は通常「全徳島」と呼ばれるが、新聞労連内では、“全”にチョンチョンと2本ヒゲを生やして「“金”徳島」と、待遇の良さを冷やかす呼び名もあるほどだ。

新潟日報(35歳、133万6千円)、宮崎日日新聞(同、124万7千円)などもブロック紙を上回る。島根の県紙である山陰中央新報も、35歳で113万円と気を吐いている。東北、中国、四国、九州などの地方紙でも、100万円の大台乗せが少なくない。

こうして見ると、人口が少ない地方の県紙であっても、高いシェアを持つ社は経営が安定しており、ボーナスをはずむ余裕があることが分かる。その一方で東京・大阪隣接型の県紙の経営はしんどい。地方紙も二極分化が急速に進んでいる。

そんな中で沖縄タイムス、琉球新報の沖縄2紙はいずれも70万円台と低額だ。「本土」の新聞が半日以上遅れて着くため、圧倒的な2紙寡占市場であるだけに意外だ。本土より物価・賃金水準が安い影響もあろうが、経営者が実質的な無競争状態にあぐらをかいて人件費を押さえ込んでいるのではないか。

「勝ち組」にもリストラの嵐

さて、今後の業界展望は「ますます寒さが募る」というほかない。

第一に、人口減少社会に入り、日本語の新聞を読むマーケット自体が縮み続けている。これまでは日本語という「非関税障壁」が外資の参入を妨げてきたが、今後は世界中で日本人以外にほとんど読者がいないという内弁慶が弱点になる。

第二に、「新聞は読まない、取らない。ニュースはテレビ、インターネットで十分」という若年層の「新聞離れ」が追い打ちをかける。より正確に言えば、雑誌を含めた「紙媒体離れ」はますます加速している。

第三に、紙代やインク代、トラックでの輸送費を直撃している原油高も、新聞社には賃下げ圧力となる。

第四に、消費税率の引き上げが日程に上りつつあることも決定的なマイナス材料だ。「2009年にも現行の5%から8%に上がる」との見方が新聞経営者の共通認識だが、その3%の上げ幅を丸ごと購読料に転嫁できる社はそう多くない。

第五に、高給を支えてきた再販・特殊指定の撤廃も控えている。消費税率のアップは毎日、産経の「リングからの退場」を促し、日経、読売、朝日にも「賃下げ、リストラの嵐」が吹く。地方紙も安泰ではない。

現に朝日の社内では「来春は賃上げよりも雇用維持を」の賃下げ論が浮上している。長らく新聞労使のプライスリーダーとして業界を引っ張ってきた朝日ですら、「賃上げどころではない」との悲観的な空気が社内を覆っている。

待遇面で朝日に追いついたといわれる日経の「春」もいつまで続くか。下期に入って株価下落、景気の先行き不透明感とともに業績が急降下。社内でも来春闘について「賃上げが厳しいならば、手当を要求すべきだ」といった慎重論が出始めている。

日本語の「壁」と再販制度に守られ、「最後の護送船団」と言われる新聞業界だが、一部の浮世離れした高額ボーナスも、この冬が「天井」になるかもしれない。

【関連記事】特集「メディアの深層」