独占入手 都道府県別発行部数一覧
2007年7月号 DEEP
まずは下の一覧表をよくご覧いただきたい。新聞広告業界筋がABC協会の公表データをもとに集計した最新時点の新聞発行部数だ。自称「全国紙」の朝日、毎日、読売、日経、産経の5大紙と各地域のブロック・地方紙首位の部数とシェアが47都道府県別に並んでいる。新聞業界でも知る人が少ない極秘データで、新聞各社の真の実力が端的に表れている。
グレーの部分はその都道府県で部数が一番多い新聞を示しており、米大統領選挙のように1位総取りで「星取表」をつけると、読売が茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、滋賀、大阪、和歌山、山口の9都府県を制し、断然トップだ。これに対し、ライバルの朝日は奈良1県だけ。読売の強さが際立つ。しかも、読売は人口が多い関東と関西で1位を占め、部数を荒稼ぎしている。読売はさらに北海道、兵庫、福岡など25道府県で2位を確保した(注・以下、各県で2番手以下のブロック・地方紙を省いて順位をつけた)。逆に4位以下に低迷している県は、中日の金城湯池である岐阜、愛知、三重、地元紙・徳島新聞の寡占状態にある徳島、沖縄タイムスと琉球新報の牙城・沖縄の5県だけ。沖縄が本土からの空輸という特殊事情から524部と少ない以外は、46都道府県ですべて読者が1万人を超えている。全国紙の看板に偽りはない。
朝日は1位1県、2位20都府県、3位23道県と、総じて読売あるいはブロック・地方紙の後塵を拝しているが、4位以下は富山、石川、沖縄の3県しかない。部数も沖縄(1542部)を除く全県で1万部超と、全国で満遍なく読まれている。全国紙を自称する資格は十分だ。
その資格に大きな疑問符が付くのは毎日だ。わが国最古の歴史を誇る日刊紙だが、首位の県はすでになく、2位もいまや奈良だけ。3位6県、4位26県、5位13県、6位1県と、地域4番手、5番手にまで後退している。かつては格下だった日経に東京、神奈川、愛知の三つの大都市圏で3位の座を奪われ、新潟、静岡、広島、鹿児島といった有力県でも「4位日経、5位毎日」と逆転されている。驚くべき惨状は北陸3県だ。富山は1841部(シェア0・5%)、石川2609部(同0.6%)、福井3938部(同1.5%)と、いずれも完全に存在感を喪失している。
産経はほとんど関西と関東のブロック紙として生きているのが実情だ。大阪で毎日をしのぐ75万部で3位を守り、その近隣の兵庫、奈良、和歌山でも日経を上回る健闘ぶりは多とするものの、首都圏では日経に遠く及ばない。山口では非常に微微たる部数、北海道や九州ではシェアが0.1%以下だ。全国紙の看板を下ろしたに等しい。
一方、日経は着実に全国紙の地位を固めつつある。前述のように東京、神奈川、愛知で3位に躍進し、富山、石川、福井でも1万部を超える部数を保つ。沖縄でも本土勢では断トツの4156部で地元2紙(沖縄タイムスと琉球新報)に次ぐ3位だ。対毎日で18都県で部数が上回っているだけでなく、対朝日でも富山、石川、沖縄の3県で、対読売でも愛知、沖縄2県で凌駕している。経済中心という特徴のある紙面づくりと、各有力地方紙の印刷工場を借りて最終版を地方に送り届ける全国分散印刷が奏功。沖縄や人口・産業の少ない鳥取(6910部)、島根(7911部)など6県を除く都道府県で、部数が1万部を超えている。
この表から浮かび上がるもう一つの特徴はブロック・地方紙の強さだ。47都道府県のうち、実に8割近い37道府県ではブロック・地方紙が圧倒的なシェアを保っている。その頂点に位置するガリバーが徳島新聞だ。部数は25万5千部だが、県内シェアは81.9%に達し、朝日、日経、読売など5大紙が束になっても、シェアの合計は14.6%しかない。「とくしん(徳島新聞の通称)が伝えない事実は、徳島では事実ではない」(同県関係者)という、現代社会では珍しい独占的なマスメディアだ。県知事も財界も否が応でも徳島新聞を重視せざるを得ない。「保守王国・徳島の象徴」と揶揄されることも少なくないが、「全国紙」の挑戦を跳ね返し続ける強みは「地域密着の報道、営業姿勢」(同)という。
鳥取の日本海新聞も発行部数は17万部弱と小さいが、県内シェアは75.9%と極めて高い。購読料が消費税込みで1カ月1995円という安さと、やはり地域密着の紙面づくりに特徴がある。経営体力にも優れ、2000年8月に大阪の夕刊紙「大阪日日新聞」を発行していた大阪日日新聞社を買収した。
県内シェアが70%台以上のブロック・地方紙は日本海新聞を含めて3紙、60%台が8紙、50%台10紙、40%台12紙に上っており、50%以上が計21紙、40%以上は計33紙に達する。大手紙は最強の読売が茨城で41・5%と40%を唯一超えているが、あとは埼玉で39・1%、千葉で36・2%、和歌山で29.9%の順で、シェアは40%に届かない。
全国各地で世論形成に大きな影響力を及ぼすブロック・地方紙はわが国の政治にも微妙な影響を与えている。5月23日、安倍晋三首相は東京・内幸町の日本プレスセンタービルで北海道新聞、中国新聞などブロック・地方紙13社の首脳と懇談し、「地方の問題について皆さんの教えを請いたい」と頭を下げた。参院選を前に、ブロック・地方紙との関係重視に動き出したとみられる。安倍首相は焦点となっている地域間格差の是正について「地域がそれぞれの特色を生かせば相当程度改善される」と述べ、前向きな姿勢を示す一方、参院選について個別の候補者名を挙げながら、情勢を“逆取材”した。
日本の首相はこれまで「全国紙」の朝・毎・読・日経・産経、通信社の共同・時事、NHK・民放キー5局を重視してきた。
しかし、安倍首相がブロック・地方紙にここまで意を用いる狙いは何か。「全国紙」の空洞化とブロック・地方紙の強さを首相が認識したためではないだろうか。
さらに隠れたる動機を指摘する声もある。5月26日付北海道新聞夕刊によると、安倍首相がブロック・地方紙の動向に敏感になるのはブロック・地方紙の大多数が「護憲勢力」だからという。桂敬一・立正大講師(ジャーナリズム論)が寄稿したもので、日本新聞協会加盟の主要47紙について、4月29日から5月5日までの憲法についての社説・論説を調べた結果、明確な「改憲」は読売、産経、日経の全国紙3紙と北國新聞の4紙だけで、多数派は「護憲」だったという。朝日は現行9条の維持を主張し「護憲」に踏みとどまったが、集団的自衛権行使を含む「平和安全保障基本法」の提案は、実質的に民主党の改憲主張に近く、毎日は「護憲」の色合いが曖昧になった。これに対して、中日、北海道、信濃毎日、中国、高知、徳島、南日本、沖縄タイムス、琉球新報など、多くの地方紙の「護憲」の論調は、はるかに簡明で説得的だったという。
改憲論者である安倍首相にとって、懐柔すべきターゲットはいまや「全国紙」ではなく「ブロック・地方紙」という分析である。オピニオンリーダーとしての全国紙の衰退とブロック・地方紙の健全さを映す仮説であることは間違いない。