外国人受け入れ問題の焦点/「量的管理」の中核に自治体を/藤原豊・政策アドバイザー

適正かつ戦略的に受入れるための「量的管理手法」は、自治体を含む制度設計こそが鍵。

2025年11月号 POLITICS
by 藤原豊 (政策アドバイザー)

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日本記者クラブで会見する「未来を創る財団」の國松氏(中央)と筆者(左)

本誌3月号の特別寄稿<スイスに倣え!『移民基本法』>では、國松孝次氏(元警察庁長官)とともに取り組んだ「『外国人材の受け入れ』に関する緊急提言」のポイントを紹介した。この緊急提言は、國松氏と私が所属する「未来を創る財団」が3月末に公表したものであるが、私たちは、その後も本提言を携えて、政・官・財・マスコミの各方面を精力的に回った。6月には、日本記者クラブでの会見や、鈴木馨祐法務大臣への訪問も行っている。

本提言の冒頭で、「昨年の自民党総裁選や衆議院選挙においても、日本では外国人受入れの問題が、欧米のように大きな政策論点として扱われていない」と問題提起した。事実、今年前半の通常国会でも、この問題はほとんど取り上げられなかった。

しかし、ご承知の通り、この夏に状況は一変する。7月の参議院選挙で「日本人ファースト」を掲げる参政党の躍進が契機となり、この問題に対する国民の関心は大いに高まり、その流れのまま、自民党総裁選でも主要論点に浮上したのである。

こうした急激な環境変化の中で、私たちの「緊急提言」の核心である「外国人受入れ問題を『人口減少阻止/地域活性化/経済成長』の視点で捉え、一体的・総合的に議論していくべきだ」という考えは、各方面に着実に浸透しつつあると実感している。その具体的手応えとして、次の二つの文書を挙げたい。

鈴木、藤田両レポートに共感

鈴木法相(左)に政策提言を行う藤田共同代表(9月19日、維新の会HPより)

一つは、鈴木法務大臣が自らの「勉強会」の名前で8月に発表した「外国人の受入れの基本的な在り方の検討のための論点整理」(以下、「鈴木レポート」)である。

もう一つが、日本維新の会が9月に公表した「外国人政策及び『移民問題』に関する政策提言」――。これは、同党の共同代表に就任して間もない藤田文武衆議院議員が主導して取りまとめたものであり、「藤田レポート」と呼ぶに相応しいものだ。

先ほど、今年の国会では外国人受入れ問題は殆ど議論されなかったと述べたが、この問題を真正面から取り上げ、石破総理や鈴木法務大臣に論戦を挑んでいた数少ない存在が、この藤田氏であった。同氏は本誌6月号にも「『外国人比率10%』の近未来」と題した寄稿をしており、私自身も意見交換の機会を重ねてきた。

両レポートの詳しい解説は割愛するが、いずれも、私たちの「緊急提言」の内容と軌を一にしており、総じて評価できるものだ。すなわち、外国人の受入れについて、従来の政府の取組は戦略性に乏しく、今後は「経済成長や治安の視点」や「政府内の司令塔機能の強化」などを重視した上で、新たな方針や制度作りを早急に検討すべきだとしている点は、私たちと問題意識を共有する。

とりわけ注目すべきは、両レポートがそろって、「上限設定」などの定量的な管理の方法――すなわち「量的管理(マネジメント)手法」に重きを置いている点である。

具体的には、「藤田レポート」は、外国人比率の上昇を抑えるために「上限」を設定した上で、受入れの「総量管理」を行うべきだとする。

また、「鈴木レポート」も、在留資格の一つである「特定技能」において既に導入済みの「5年間の受入れ上限数」の仕組みを、他の在留資格にも拡大することを検討する、としている。この「特定技能の受入れ上限数」は、あくまで「目安」で法的拘束力はないが、同レポートは「社会との摩擦が許容度を超える兆候が見えた場合に時限的に受入れ制限を行う」といった「時限的総量規制」にも言及しており、今後は、この仕組みの法定化も検討される予定だ。

こうした「量的管理」については、私たちの「緊急提言」も「最終的には、全体の受入れ数を国がコントロールすべき」としており、その重要性を明確に位置付けている。しかし一方で、真に実効性のある「量的管理手法」を制度化することは、口で言うほど簡単ではない。私は、「鈴木レポート」が示す「特定技能型上限数の他の資格への拡大」というアプローチだけでは不十分な制度になりかねない、との懸念を抱いている。

特定技能の「5年間の受入れ上限数」は、各産業界の「5年後の人手不足数の見込み」をベースに業種所管省庁によって算出されるが、問題は、その「上限数自体」ではない。その前提となっているコンセプトが終始、「人手不足対応」であることが問題なのだ。要は、産業界の言い値に近い。しかも同様の考え方は、技能実習に代わる「育成就労」に導入される見通しである。

受入れを「管理」するには、「誰を受入れ、誰を受入れないのか」を選別する明確な「基準」――すなわち、国家としての「基本方針」が不可欠だ。

「人手不足対応」というコンセプトに基づく特定技能の制度が、さらに他の在留資格――例えば、ホワイトカラー系の専門職を対象とする「技術・人文知識・国際業務」(技人国)などにも拡大されるとすれば、産業界主導の「なし崩し的」な外国人受入れをさらに助長しかねない。

加えて「技人国」については、それが特定技能や育成就労と異なる「業種横断的」な在留資格であるため、一義的責任を持つ業種所管省庁がなく、上限数の算出からして容易ではない、という技術的な問題も存在する。

「量的管理」主体に自治体も

では、どうするか――。実効性のある「量的管理手法」の確立に向けて、私は、次の二点を提案したい。いずれも、私たちの「緊急提言」の中核である。

第一に、受入れるべき外国人の「基準」、すなわち「基本方針」を定めることである。

政府は「人手不足の穴埋め」という受け身的な発想を脱し、受入れるべきは「地域の活性化、ひいては日本の経済成長に貢献する人材」とポジティブな考えに基づく「基本方針」を早急に定める必要がある。こうした基本方針が無いことが、日本の外国人政策の最大の欠陥なのだ。

第二に、「量的管理」の管理主体として「地方自治体」を戦略的に組み込むことである。

「地域の活性化、経済成長への寄与度」を、それぞれの地域固有の実情を考慮して判断できるのは「地方自治体」である。したがって、外国人受入れの計画作りからモニタリングまでを、産業界主導ではなく、自治体が主導(ないしは深く関与)する体制が不可欠だ。

なぜなら外国人は「生活者」であり、少なくとも地域住民との関係においては、自治体が責任を持って対応せざるを得ないからである。もちろん自治体に対する十分な権限と財源の移譲が大前提だ。

量的管理の主体に「地方自治体」を、戦略的に組み込む――。このモデルには先例がある。私が公務員時代に担当した「国家戦略特区」の仕組みだ。

例えば、家事代行サービスを行う外国人の受入れ・管理については、国とともに地方自治体から成る「管理協議会」が設けられ、受入れ企業や外国人のモニタリングや苦情対応も既に行われている。量的管理の中核に自治体を据える制度設計は、現実に機能し得るのである。

外国人を適正かつ戦略的に受入れるための「量的管理手法」は、地方自治体も含めた制度設計こそが今後の鍵となる。従来の「なし崩し」ではなく、また排外主義にも陥らない冷静な議論の中で、早期の制度化が進むことを、新政権に対し強く期待したい。

著者プロフィール
藤原豊

藤原豊 (ふじわらゆたか)

政策アドバイザー

東大経済学部卒。経産省退官後は、楽天グループを中心に、セブン&アイホールディングスやフロンティア・マネジメントなどの企業、財団、自治体のアドバイザーや社外役員を務める。

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