コロナ罹患の東大理Ⅲ生の「留年」確定/東京地裁に前代未聞の執行停止の訴え!/森山教養学部長名「抗議文」に名誉棄損提訴も

号外速報(8月19日 11:00)

2022年9月号 DEEP [号外速報]

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東大教養学部のキャンパス正門

東京大学で、新型コロナで授業を欠席した理科Ⅲ類の学生に本日(8月19日)、留年が宣告された。必修の1単位の「不可」が原因だ。不可に驚いて教員に救済を求めると、死者に鞭打つように「17点」もの減点をされた。学生は納得せず、19日中にも東大の留年決定処分の執行停止を東京地裁に申し立てる。

近藤興助教が「診断書」受け取り拒否

担当教員の近藤興助教(researchmapサイトより)

この学生は東大教養学部2年(理Ⅲ)の杉浦蒼大さん(20)。文部科学省で記者会見を開くなど、実名で留年の不当性を訴えている。

杉浦さんが単位を落としたのは今年4、5月に受講した「基礎生命科学実験」。授業は6回あり、カエルの解剖などのスケッチと課題を毎回提出することで単位が認定される。杉浦さんはオンラインで受講していた。

ところが5月17日朝、一人暮らしの自宅でコロナが発症。39度を超える高熱や呼吸困難があり、この日に予定されていた講義と翌週の24日の講義を受けられなかった。病欠時は当日11時までに学内システムで欠席届を出すルールがあったが、症状が重篤で手続きができなかった。

森山工教養学部長(東大HPより)

25日にようやく連絡がとれる程度に病状が回復したため、担当教員の近藤興助教にメールで事情を説明した。近藤助教は24日の補講は認めたが、17日については「経過日数的に対応できません」と認めなかった。

補講はビデオを見てスケッチと課題を提出するもので、24日分は27日に受けた。オンライン受講の杉浦さんにとって、通常と変わらない。杉浦さんは、その後もせきや頭痛などの後遺症で在宅療養を続けたが、6月17日の成績発表で同実験の「不可」を知った。

あわてた杉浦さんはその日のうちに、最初に診断を受けた診療所と、後遺症の治療を受けていた診療所から、それぞれ診断書を取り、近藤助教に提出しようとした。しかし、近藤助教からは、「もはや特段の意味はありませんので提出不要とします」とするメールが返ってきた。

「不可」に追い打ちかける「大幅減点」

東大生の多くは2年生の前期までの成績をもとに、3年生で進学する学部が決まる。杉浦さんは、秋から医学部に進む予定だったが、必修の同授業は春学期しか開講されず、この科目が不可となれば、留年が確定してしまう。

しかし、近藤助教に不可の扱いについて説明を求めても「教務課からの通知により、教員と学生が直接やりとりすることは禁じられています」と取りつく島もない。そこで6月19日、東大のシステムで「成績確認」の手続きをとり、同時に教養学部の森山工・学部長らに質問する手紙を送った。

成績確認の回答は4日後の23日、同システム上であった。それは「貴君がコロナに感染した状況を十分に配慮した上で、提出されたレポートの内容を吟味し成績評価を行いました」などというものだった。ゼロ回答のようだが、「成績訂正の有無」の項目に「有」と記されている。その説明には「成績訂正がある場合でも、不可の範囲内での点数変更だった場合は、成績の評価は変わらず、平均点のみ変更されます」と書いてある。

不審に思った杉浦さんが自身の成績を確認すると、成績発表の時よりも全教科の平均点が下がっていた。そこから逆算すると、基礎生命科学実験の評価が100点満点中17点も下げられている計算になる。同実験は50点取れば「可」になる教科なので、もともと49点以下だったのだが、さらに下げられて32点以下になったということだ。

「不可」に追い討ちをかける大幅な減点。その理由も全くわからず、杉浦さんはショックを受けたが、森山学部長からの返事を待った。

助教も教務課も「成績修正」の説明せず

返事は6月29日に届いた。冒頭に「科目担当教員から事情を聞き、学部内で調査ならびに検討を行いましたが、本件について特段の対応はしないとの結論に至りました」と書かれていた。

説明文には「杉浦さんは、5月17日夕刻にITC-LMS(東大の学習管理システム)上で実習課題の内容を閲覧・確認していたことが分かっています」とあり、杉浦さんが欠席の手続きを踏まなかったことを指摘するものだった。

杉浦さんは単位が欲しい。システムまでたどり着きながら手続きができなかったのは、よほどの病状であった証拠と見ることもできる。

ところが、手紙は「17日の欠席を考慮しなくても(それが出席であり、かつ提出課題に満点の評点が与えられていたとしても)、授業全体の成績評価は不可の評価であることが確認されています」などと、17日の分の補講を受けたとしても不可であることに変わりがないと述べている。

だとすれば、なぜ、学習管理システムの手続きを持ち出してまで、補講が認められないことを伝えなければならないのか。

手紙は17点の減点を確認する前に送ったものだが、その説明もない。6回の授業で100点が満点なので、1回の「満点」は約17点だ。杉浦さんのアピール後に、「出席で課題満点でも不可」の点数に下がったと見ることができる。これに触れない説明は、不誠実と言えるだろう。

杉浦さんは、悩んだ末に7月18日、近藤助教にメールで成績修正の説明を求めたが、翌日、「問い合わせたいことがある場合は教務課にお願いします」などとする返信メールが来た。そこで、教務課長に問い合わせると同月27日に回答があった。それは、教養学部として評価の精査をした結果として「適正な修正であることを確認しています」とだけ答えるもので、なぜ17点もの減点になるのか具体的な説明はなかった。

東京新聞を恫喝する「抗議文」の非常識

杉浦さんが医学部で授業を受けられるかどうか最終的な結論が示されるのは8月19日。その日が刻々と迫るなか「十分な説明なしに留年を受け入れるわけにはいかない」と考えた杉浦さんは、8月4日、友人らとともに文部科学省の記者クラブに乗り込んで記者会見を開いた。

文科省で記者会見を開いた杉浦さん(8月4日)

会見を聞いた記者が東大に問い合わせると、東大教養学部は杉浦さんの減点について「別の学生の課題などの評価と取り違えていたので減点し、別の学生に加点した」などと、ようやく説明したのだ。翌日には、「感染し単位不認定 東大生留年危機」と報じた東京新聞への抗議文「貴紙における事実にもとづかない報道に対する抗議文」をホームページに掲載した。そこには、コロナに感染した学生に対する配慮など微塵も感じられない論理が展開されている。

冒頭から「弊学部における新型コロナウイルス感染への対応一般と、特定の学生が特定の授業科目の単位を修得し損ねて留年を余儀なくされるというのとは、全く相互に無関係な事象である」とし、今回の問題は後者であると言い切っている。

「当該授業科目では、コロナ罹患であろうとなかろうと、体調不良等のやむをえない理由により欠席する場合の手続きについては、受講生全員が必ず確認する冊子、『実験補遺』に明記されています」としたうえで、「コロナ欠席であろうとなかろうと、欠席する場合の所定の手続きを踏まなかったことが問題なのです」と、あくまで手続きを怠った学生の問題であると強弁した。

さらに、この授業は「16人からなる教員の集団指導体制」で運営されているため、「特定の教員個人の恣意が入り込む余地」はなかった、と書いている。授業計画に名前とメールが載っていて、杉浦さんとやりとりをした近藤助教は、なぜか表に立たないのだ。「16人の教員団」が成績評価などをしているというが、成績について説明をしてもらう教官が誰か分からないような授業を教育と呼べるだろうか。むしろ16人による集団無責任体制と言えるのではないか。これでは、顔も名前も出して堂々と主張している杉浦さんの信頼性が高いと、世の中が受け止めたとしても致し方ないだろう。

杉浦さんは、自分の大学の学生の名誉を考えない文章を公開したことに抗議した。すると東大教養学部は8月18日、「本学部の立場を説明するという当初の目的はひとまず達せられた」などとして抗議文を削除した。杉浦さんは19日中にも、名誉毀損だとして慰謝料を請求する訴訟を東京地裁に起こすという。

東大揺るがす「成績取り違え」発覚

話を元に戻そう。「成績取り違え」には、学生新聞の「東大新聞」が敏感に反応した。

8月8日には「前期教養課程 成績の取り違えのミス発覚」と報じ、「他の学生の成績でも同様のミスが起こっている可能性についても取材を行った」と伝えた。翌9日には「『採点者からの報告段階でミス』 取り違えの詳細回答」という記事も載せ、大学への取材の様子も一問一答で公開した。

東大新聞オンラインで、一連の記事は「アクセスランキングTOP5」を独占している。それもそのはずで、東大には2年の前期までの成績で3年の進学先が決まる「進学選択制度」がある。教養学部の成績で人生が決まる学生も多いのだ。そこで成績の取り違えが発覚し、17点もの減点があったと聞けば、他人事では済まない。

その中にあって、杉浦さんは留年の宣告を受けた。いまだに基礎生命科学実験の成績が何点だったのかさえ知らされず、授業計画に名前を載せていた近藤興助教から具体的な学習の課題についての説明はない。この状況に納得できないため、本日(19日)にも東大の留年処分の執行停止を東京地裁に申請するとともに、東大に医学部への進学を義務付けることを求める訴訟も起こすことにしている。

   

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