インタビュー/帝国データバンク情報統括部長 上西 伴浩氏(聞き手・副編集長 田中徹)

「ゾンビ企業」問題を直視 フェアな市場への好機に

2022年9月号 BUSINESS [エキスパートに聞く!]

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1968年、宮崎県生まれ。90年リコージャパン入社。93年帝国データバンク入社。名古屋支店で調査員、調査部長を経て、東京支社調査部長、札幌支店長、東京支社営業部長などを歴任。2021年10月より現職。

――いわゆる「ゾンビ企業」の現状を分析した調査レポートを公表されました。

上西 バブル崩壊からリーマンショックの頃に「ソンビ企業」という言葉ができました。定義はさまざまですが今回、BIS(国際決済銀行)による「3年以上に渡ってICR(借入金利息の支払い能力を測る指標)1未満、設立10年以上」を用いて分析しました。人間の病気と同じで、予兆があるのであれば対策した方が良いよう、「ゾンビ企業」についても世に示して対策をするべきだと考えました。

 与信管理の基本は、手が打てる段階で対策すること。金融機関の本来の役割である伴走型支援も現状を見極めることが大切です。個人的には好きな言葉ではありませんが、このような調査が求められる時期に差し掛かっているのではないかと考えています。

――20年度の「ゾンビ企業」の割合は11.3%、約16.5万社と推計されています。

上西 金融機関に関心を持たれると思っていましたが、業種に関係なく反響をいただいています。「ゾンビ企業」であっても良いビジネスモデルと技術、社員がいるところもあります。苦しくなるまでにさまざまな自助努力をされていると思いますから、それまでの努力とは違う角度で経営改善、立て直し策を考えてほしい。弊社にも倒産をつぶさに見てきた、地域では先生と呼ばれるような調査員が多くいます。債務超過の会社が年商数十億、億単位の利益を出せるようになったケースもあります。

金融機関に限らず取引先、身の回りにも相談先やノウハウはあると思います。企業の復活は、タイミングが遅れるほど対策が狭まります。中小企業の場合、現在では後継者難、事業継承問題も絡んできますが、一方でM&Aも増えてきています。「ゾンビ企業だから悪」ではなく、チャンスと捉える人もいます。

――金融危機時の資金繰り対策に加え、実質無利子・無担保のコロナ関連融資(ゼロゼロ融資)がゾンビ企業問題の背景にあるとの指摘もあります。

上西 ゼロゼロ融資で助かった企業もありますし、経済を守るためには必要でした。一方で、補助金や好条件の融資を受けている企業と、そうしたものを使わず一生懸命、頑張っている会社が競合し、例えば安値競争を繰り広げるのはフェアではありません。そうした市場では価格転嫁ができず結果、人件費も低く抑えられたままになります。8月に最低賃金が31円、過去最大の引き上げ幅となりました。市場機能を正常に戻すため、ソンビ企業をふるいに掛ける必要はあると思います。

私は調査員の時、経営者の方に「会社の強みは何ですか?」「融資や投資を受けるためのプレゼンを2、3分でまとめられますか?」とよく質問していました。すぐに答えられない会社はその後、良い結果とはなりませんでした。事業への思いはあっても、事業モデルを定量化して語ることのできる経営者は意外と少ない。ですから、脆弱な企業ほど、自分の会社を客観的に見て行動計画や資金計画を立てるべきです。なんとなく儲かる仕組みができることはありません。また、従業員をコストとして捉えている会社は、上手くいっているケースは少ない。調査に行ったら従業員に「うちの会社倒産したの?」と聞かれたこともあります。危機には従業員からの発言があるはず。孤独な社長、経営者と従業員の考えがずれているところは倒産することが多かったですね。

――調査では、「ゾンビ企業」のうちコロナ関連融資を借りた・借りている企業は約8割、返済を不安視する企業は15.5%となっています。

上西 来夏に向け返済に窮するケースが増えるかもしれません。原材料高や原油高、円安がコロナ前に戻ることは考えにくく、返済原資は大丈夫か、金融機関がどこまで対応できるか、とは感じています。事後処理はこれからです。倒産が増加すれば経済環境は悪化してしまいます。また倒産したとしても、再チャレンジする文化を広げ、既存のプレーヤーを流動化、活性化させないと経済は守れません。

弊社は倒産情報だけではなく、経済に役立つ情報を発信していますが、あまり認知されていません。昨年10月に発足した情報統括部のミッションは、そのプレゼンスを高めることです。またベンチャー、スタートアップについても情報発信を強化します。政府もスタートアップ担当大臣を新設しました。ベンチャー、スタートアップ関連には多くの団体がありますが、横串する人がいないのが課題と感じます。点と点を結びつけることはありましたが面に広がらない。ベンチャープラットフォーム的なものが整備されるといいなと考えています。

「ゾンビ企業」であっても、例えば販路などスタートアップにとって魅力的な資産があり、マッチングでメリットが生まれるケースがあります。取引や出資、合併など方法は様々ですが、既存企業とベンチャーの化学反応があれば企業の再興だけではなく、雇用維持にもなります。地方企業であれば地域活性化につながるし、デジタル田園都市構想にもつながるのではないでしょうか。長い目で見れば、SDGsな仕事になると思います。そうなるよう弊社として情報を発信していきたいですね。

――コロナによって企業を取り巻く環境は、どう変化していくと見ていますか。

上西 コロナ前に戻るということはないでしょう。通信インフラも整いつつあり、リモートでできることはリモートになります。最近では地方都市にもレンタルルーム、コワーキング・シェアオフィスができ始めています。駅近の物件が余っているからシェアオフィスにしようという動きもありますし、そうした場では、異業種間の人同士が仲良くなって、新しい発想や反応が生まれています。

ただし、すべてがドライに決まるわけではないので、リアルな職場も必要です。通勤2時間でも、週の半分がリモートなら仕事も楽になる。業種や業態によって取捨選択すればいいのではないでしょうか。コロナ禍で社会にそんな動きが広がっています。いま、あらゆるところでゲームチェンジが起こっている渦中です。そこに企業にどう絡めるかで、事業の将来も変わってくるのではないでしょうか。

(聞き手・本誌副編集長 田中徹)

   

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