インタビュー/参議院議員・早稲田大学客員教授 大塚 耕平氏(聞き手/編集長 宮嶋巌)

「超円安」日本経済の分水嶺と如何に向き合うか

2022年9月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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1959年生まれ。日本銀行を経て2001年参院初当選(現在4期目)。内閣府、厚生労働両副大臣などを歴任。早大博士(専門はマクロ経済学)。政界屈指の経済財政通である。

――春以降、瞬く間の「超円安」をどうご覧になりますか。

大塚 政治は時に不条理なことが起きますが、経済は中長期的には合理的なことしか起きません。実質実効為替レートは50年振りの円安ですが、この傾向は異次元金融緩和下で始まりました。超金融緩和の円安バイアスを打ち消すだけの通貨に対する信頼がなければ、中長期的には円安が進みます。

――通貨に対する信頼とは?

大塚 科学技術、産業力、人材力、防衛力を含む国家の将来に対する総合的信頼、投資対象国としての魅力の裏付けとなる基軸通貨性です。

――我が国の「双子の赤字」時代の始まりになりますか。

大塚 財政赤字は当分続きます。「失われた30年」の間に生産拠点は海外移転しており、円安はかつてほど輸出増につながりません。「双子の赤字」が恒常化する懸念はあります。

――これまでの黒田総裁の舵取りをどうご覧になりますか。

大塚 これだけの異常な金融緩和を強行し、自ら出口戦略について道筋をつけずに10年の任期満了で退任することになります。経済の不確実性を減らすことが中央銀行総裁の仕事ですが、むしろ不確実性を最大化してしまいました。そもそも2年で目標達成すると豪語して始めた異次元金融緩和が約10年続いています。この状況の正常化には、退任後の黒田総裁が見届けられないほどの時間がかかるでしょう。後世、厳しい評価を受ける可能性が高いと思います。

――日本経済の分水嶺とは?

大塚 異常な状態ですから、セオリー通りの経済政策では脱却できません。10年程度の期間で「呪縛」を逃れるためには、この状態を受け入れ、活用する途もあります。滝に流されている時に泳いで上にはいけない状況と似ています。摑むことのできる木枝や蔦や岩を頼りに、滝を横に脱し、ピンチをチャンスに変えるチャレンジをする局面です。だから「分水嶺」です。元首相が逝去されたため、さらに滝に流され続けるか否かは岸田首相の意思次第です。

――資源と食料を輸入に頼る日本は人財こそが国力の源です。

大塚 既に「安い国」になっている日本が過度の円安でさらに交易条件が悪化すれば、「安い給料」と「購買力の低い通貨」の国となります。優秀な日本の若者や勤労者は海外に行き、有能な外国人は日本に来なくなるのは合理的な動きです。もはや状況打開の局面は過ぎてしまった印象です。経済戦争に敗れ、第2の戦後復興に腕まくりする時代に入りました。

――まともなマクロ政策に切り替えるラストチャンスでは?

大塚 日銀の保有する膨大な資産の利回りは低く、利上げを行うと日銀自身が債務超過に陥るリスクがあります。ラストチャンスというより、既にゲームセットしています。どうやってこの状況を脱し、どうやって新しいゲームを始めるか、知恵を絞り、手順を踏んで実行していく局面です。それをやり切ることができる日銀総裁と財務大臣の登場が必要です。

――分水嶺と向き合う「オオツカノミクス」の処方箋は?

大塚 簡単ではありませんが、次号以降の連載コラム「三耕探究」の中で持論を述べていきたいと思います。

(聞き手 本誌編集長 宮嶋巌)

   

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