風俗詐欺グループは「良家の子弟」

池袋の風俗詐欺グループを摘発した警察は驚愕。親は証券会社首脳やメガバンク幹部。

2021年11月号 BUSINESS

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池袋署が摘発したのは緊急事態宣言が発令されている最中だった

Photo:Jiji Press

東京・池袋で風俗店への客引きを装い詐欺行為を繰り返していた犯罪集団が警察に摘発された。メンバーの親にはメガバンク幹部や証券会社社長らが含まれている。

なに不自由なく育った

東京都豊島区のJR池袋駅北口周辺には宿泊施設が建ち並ぶ。数年前までは中国人が営む食料品店や雑貨店などが軒をつらね、さながら「チャイナタウン」の様相を呈していたが、いまは五反田や鶯谷と並ぶ東京で指折りのラブホテル街として知られている。

今年2月27日午後10時15分ごろ、池袋駅北口から300メートルほど離れた路上で、20代の男性3人グループに黒色のダウンジャケットを着た男が声をかけた。

「どうです? 写真だけでも見てもらえませんか。見るのはタダですし」。3人グループが拒否反応を示さなかったため、ダウンジャケットの男は畳みかけた。「デリバリーヘルス(派遣型風俗店)になりますけど、今ならこの3人の女性は案内できますよ」

男性グループが写真で示された女性に興味を示すと、「通常は1人3万2千円ですけど、終わった後にアンケートを書いてくれれば1万8千円をお返しします。実質1万4千円になります」と男はよどみなく説明した。「それは良い話だ」と男性グループが快諾すると、「ではひとまず3万2千円の支払いをお願いできますか」と言い、3人からそれぞれカネを巻き上げた。この間、わずか30分程度だったという。

男性グループはこの後、ホテルに入って写真の女性を待つつもりだったが、しばらくするとホテルの前に先のダウンジャケットの男とは別の男が現れた。「注意事項を言い忘れました。うちは高級店なので、女の子が傷つけられないように細心の注意を払っているんです。安心料として3万2千円の3倍を預けていただけませんかね。いやいや、あくまで保証金です。後でお返ししますよ」と言った。

男が男性3人組のうちの1人から現金9万円を受け取ると、今度はまた別の男が登場し、残りの2人にこう言った。「私は店長をしております。最近池袋で風俗嬢が切りつけられる事件がありましてね。女の子の安全のために保証金を預けてもらっています。保証金は3万2千円の5倍ですが15万円で構いません」。3人組はようやくホテルに入ったが、結局女性が訪れることもなく、ダウンジャケットの男や「店長」と言った男らは姿をくらました。

数年前まで客引きが横行したのは新宿・歌舞伎町や上野だったが、警察の摘発が強化されたため、「主戦場」は池袋に移ったとされる。このうち池袋駅北口を拠点に活動していたのが「PSグループ」と呼ばれる集団だ。主要メンバーはかつて歌舞伎町で同様に詐欺行為を繰り返していたといわれる。

グループには特徴があって、半グレ集団などにありがちな明確な主従関係がなく、あたかも友達同士がつるんで火遊びをしているような感じだったことだ。誰が客引きをやり、誰が案内するか、見張り役は誰かなども固定しているわけではなく、その都度決めていたという。

このPSグループに対して池袋地域を管轄する警視庁池袋署は相当な危機感を抱いていた。昨年だけでPSグループが関与したとみられる詐欺に関して約200件の被害相談が寄せられ、被害額が約5500万円に上ったからだ。中にはキャンセル料名目などで数百万円を詐取された被害者もいた。捜査関係者は「相談件数の合計だけで5千万円を超えているわけだから、実際の被害はその数倍に及ぶだろう」と言う。

ちなみにPSグループには大相撲力士、元貴闘力の親戚が所属していた。今年初めまでにグループを抜け、墨田区内の東京スカイツリー近くにある焼肉店で働いていたが、5月に麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕されている。

「池袋駅北口付近で活動するために1人あたり毎月10万円の場所代を暴力団との仲介役となる男に支払っていた」(グループの元メンバー)。池袋署はグループの背後に暴力団の存在も確認できたことから、PSグループの立件は詐欺事件を担当する刑事課知能犯係でなく、組織犯罪対策課が取り仕切った。

摘発に向けた動きが激しくなったのは東京五輪・パラリンピックの開催が近づいてきた今春に入ってからで、毎晩、制服と私服の警察官を大量に動員。その結果、同署は4月28日までに詐欺容疑でPSグループの6人を逮捕したが、そこで驚きの事実を知った。「逮捕者の多くが裕福な家庭の出身で、なに不自由なく育った人間だった」(捜査関係者)からだ。

古典的な手法が通用する

このうち1人は港区に本社を置く証券会社首脳の子供。この証券会社は投資銀行やヘッジファンドを顧客としてコンサルティング業務などを営んでおり、設立後は増収を続けている。

もう1人の父親はメガバンクの監査部門幹部。「父親は息子が詐欺集団のメンバーだったことがバレないかを心配し、事態の収拾に奔走していた」(関係者)という。結局、不起訴にはなったが、親や兄弟が教師を務める家庭の子供もいた。

多くは居酒屋などでアルバイトをしている時に、「わりの良い仕事がある」と誘われて、詐欺集団のメンバーになったという。おかげでカネ回りは良くなったが、生活が派手になり、結局のところ巻き上げたカネを遊興費と借金の返済に充てていた。

それにしてもカネに困らない家庭に育ちながら、なぜ犯罪に手を染めたのか。捜査関係者はこう分析する。

「例えばオレオレ詐欺は被害者のほとんどが高齢者だから撲滅キャンペーンが展開しやすい。それだけに犯罪集団も手の込んだ手口を考えなければならない。これに比べて性風俗がらみの詐欺は被害者にも問題があるから泣き寝入りするケースも多く、それだけ古典的な手法がいまだに通用する。逮捕された連中は根っからの筋悪ではなく、遊び感覚で犯行に及んだのではないだろうか」

PSグループは系統だった組織ではなく、役割分担も明確ではない。元メンバーによると「メンバーが検挙されても組織が潰されるというわけではないから、再び何人かが声を掛け合って同じ犯罪を繰り返す」という。一時的に身を潜めている詐欺集団はコロナが落ち着き、繁華街がにぎわいを取り戻せば、再び活発に動き出すことだろう。

   

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