「レジリエンス」強化、岸田政権に「三つの期待」
2021年11月号 BUSINESS [エキスパートに聞く!]
1957年生まれ。東大法卒。大蔵省(現財務省)入省。金融庁参事官、財務官などを歴任。2015年退官後、国際医療福祉大学特任教授、SBI大学院教授などで国際金融情勢を分析。
――米国は消費者物価が上昇し、FRBは11月にも量的緩和の縮小を決める見込みです。
山㟢 コロナは世界経済のデジタル化を加速しただけでなく、経済安全保障の観点から世界の投資・技術移転・資源確保・供給網の変革を促す起爆剤にもなりました。短期的には米英などに需要逼迫、インフレを引き起こし、FRBは金融政策の転換を迫られていますが、ともにAI大国で圧倒的な技術革新力のある米、国家管理経済の中国は、この大変革時代の勝者になる資質を備えています。
――いよいよ総選挙。いまの政治に求められているのは?
山㟢 コロナから国民の健康と生活を守ることが第一なのはもちろんです。コロナに対する日本政府の対応は入国規制の遅れ、ワクチン承認の遅れという初動のミスはあったけれど、菅政権はそれを挽回するところまでやり遂げました。
岸田政権には最悪を想定した「第6波」への備えと疲弊した家庭、事業者への支援を継続してもらいたい。そのうえで、この大変革時代に賢く対応して、国民が将来の生活設計に不安を持つことなく安心して生活ができる社会を作ることです。
――具体的に何をしますか。
山㟢 3つあります。第一に、日本の成長力の嵩上げ、実質賃金の引き上げの実現です。これができてはじめて「成長と分配の好循環」が実現できます。そのためには、日本がDXと脱炭素の勝ち組になること。つまりDXと脱炭素を実現する技術、サービス、ビジネスモデル、製品を創造し、提供する側にならなければ――。いま政府がすべきことは、強力な規制緩和と政策誘導による研究・技術開発、そして日本が不得意だった社会実装の早期実現と、この成長分野で活躍できる大量の人材の育成、就労支援です。
第二に、日本の社会保障制度の充実と強靭化です。消費税を上げなくても、やれることはたくさんある。非正規労働者の厚生年金加入、60歳を超えて働いている人の保険料負担などです。医療保険制度も給付と負担のアンバランスを高所得者の適正負担で埋めていくべきですね。
第三に、2035年前後に高い確率で発生し、東日本大震災の犠牲者、経済損失の10倍の被害、さらに富士山噴火誘発の可能性が想定されている南海トラフ地震への対応です。早ければあと10年程度で発生するのに、その被害を最小化するための戦略が十分とは到底思えません。
――7日の晩、東京で10年ぶりの震度5強を記録しました。
山㟢 大津波と震度7の揺れが広範囲の地域を襲うと想定されており、脱炭素の行動計画もこれを織り込むべきです。震災後の長期間の電力不足、交通大動脈の寸断が必至であるとき、バックアップの火力発電所が不足し、クルマが皆EVになってしまっていたら二次被害による日本経済への打撃は計り知れない。現在進行中の津波対策はもちろん、住居の耐震補強の加速など、危機対応投資を加速することが、結果的に経済損失、財政負担を抑えることになるはずです。震災後の巨額財政支出は必至ですから、その時までに日本の財政のレジリエンスを強化しておかなければなりません。
(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)