衆議院議員 石破 茂氏に聞く!(聞き手/編集長 宮嶋巌)

五輪後こそ「日本の在り方」が問われる!

2021年9月号 POLITICS [リーダーに聞く!]

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1957年生まれ。慶大法卒。86年の衆院選で全国最年少29歳の若さで初当選(鳥取1区・当選11回)。防衛庁長官、防衛相、農水相、内閣府特命担当相(地方創生)、自民党政調会長、幹事長などを歴任。

――緊急事態宣言発令下、東京五輪が無事に終わりました。

石破 海外から「東京の7、8月は温暖で晴れた日が多く、アスリートが最善を尽くすために理想的な気候」と謳って招致したことへの批判も聞かれましたが、「バブル方式」で行動制限された選手たちや、ルール通りの行動を義務付けられた報道陣に「やっぱり日本はいい国だった」「日本人は親切な人たちだった」と思ってもらえる努力を、パラリンピックが終わるまで続けて欲しいと切に願います。

――分断と不信の中で幕を開け、達成感の乏しい大会でした。

石破 「史上最もおカネをかけない」とともに「打ち水、簾(すだれ)、葦簀(よしず)などの日本古来の暑さを凌ぐ知恵を現代風に昇華・発展させた技術を用いて地球温暖化の時代にも対応できる」ことを世界に示すことを期待し、多くの企業がそれに向かって技術開発していたはずですが、あれはどうなってしまったのでしょう。

今一つ私が熱狂できなかったのはやはり「2回目」だから――。57年前の東京五輪の時、私は鳥取市の小学校2年生だったのですが、街中に三波春夫さんの『東京五輪音頭』が流れ、街道を走る聖火リレーに日の丸の小旗をちぎれんばかりに振ったものです。敗戦から19年、日本はまだまだ貧しい時代でしたが、人々は一様に明るい未来を信じ、都市にも地方にも希望と活気が満ちており、あの時と今とで社会の雰囲気が全く異なるのは、コロナ禍だけが原因ではないでしょう。前回の東京大会の時、日本国民のほとんど全てに共有されていた一体感が、とても懐かしく思われてなりません。名画中の名画のリメイクを観たいと思わないのと似ています。

――先生と同年齢の私も同じ感慨を覚えました。『カサブランカ』のリメイクは観たくない。

石破 ハンフリー・ボガートがいないと『ラ・マルセイエーズ(仏国歌)』が響きわたらない。

来し方を顧みて、五輪の持つそもそもの意義、あるべき姿を、国民一人一人が問い直してみるべきものと思います。そして、米中対立という環境下、本年の中国共産党創設百周年を終えて、来年2月4日から開催される北京冬季五輪が、21世紀の世界を大きく変えるかも知れない。来年を見据えた日本の在り方が問われます。五輪後こそ、我が国の正念場と考えています。

――東京都の新規感染者が1日5千人を超え、8月下旬には1万人を超える予測もあります。

石破 医療崩壊が懸念されるというのなら、病床逼迫率を示すために感染者数と共に、コロナ患者向け病床数の増加が発表されなければおかしいのですが、なぜ、それが行われないのか。警察・消防・自衛隊などは、その要員を公費で養成し、運営も公費で賄われている公的インフラですが、医療も本質的には、そうあるべきではないでしょうか。4度目の緊急事態宣言が発令されても効果が表れないのは「自粛疲れ」というより、政治が医療の弾力性や機動性を確保する努力を十分に行っていないことへの不信感があるのかも知れません。もはや医療関係者の使命感と責任感のみに頼るのは限界です。立法者である我々には、あるべき法体系を早く示す責任があると考えています。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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