連載コラム:「某月風紋」

2021年8月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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財務省の公文書改ざん問題をめぐって、近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺し、妻の雅子さんが「赤木ファイル」の開示を政府に求めていた。大阪地裁による決定によって、財務省はファイルを公開した。「民」の雅子さんが「官僚」組織に挑んで勝った。これまでなら、夫の上司の働きかけによって泣き寝入りするのがおちだったろう。

1990年代末に旧大蔵省官僚らに対して、民間の金融機関が接待を繰り返した。予算の獲得を目指して、旧大蔵省の官僚を他の官庁が接待する「官官接待」事件もあった。接待した側の官僚の話を聞いた。宴席にコンパニオンを侍らして、下半身のサービスをさせる大蔵官僚の姿はおぞましい。

経済産業省のキャリア官僚ふたりが、給付金詐欺の容疑で逮捕された。耳を疑う悪行だ。

「文春砲」(7月8日号)によれば、経産省の給付金詐欺事件の主犯格と見られる人物は、高校時代から投資によって巨額の利益を得ていた、とうそぶいていた。また、知り合いから多額の借金もしていたという。

関西大名誉教授の故谷沢永一さんは「学歴は日本人の刺青だ。一生消えない」と語っていた。卒業大学の名が一生ついて回る。

ショートショートSF文学を開拓した、星新一の長編に『人民は弱し 官吏は強し』がある。父の一(はじめ)の物語。星製薬を創業して、輸入品に頼っていた外科手術に必須のモルヒネを国産化。事業は成功したが、官僚によって、いいがかり同然の法解釈を根拠に、独占権が切り崩され、会社も事実上解体されて潰された。

「官僚がいかに醜いかを知るには、この一冊をもって足る」と、谷沢さんは評した。

「赤木ファイル」は「民(妻)」の力が「官僚」に優った。官僚がまとっている刺青が、若者に流行っている「タトゥー・フェイク・シール」、つまり単なる写し絵であることがバレてきたのである。

(河舟遊)

   

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