「コロナ後」厚労省を見切る大量離職の恐れ
2021年8月号 POLITICS [リーダーに聞く!]
1969年生まれ。東大法卒、大蔵省入省。米ハーバード大大学院修了。2009年衆院初当選(香川2区、当選4回)。旧希望の党代表、旧国民民主党代表を経て、2020年9月新「国民民主党」代表に就任。
――東京五輪の開会式に「陛下にお出ましをいただくべきではない」と発言されました。
玉木 五輪憲章では「開催地の国家元首が開会を宣言する」と定められていますが、国民の間に不安の声が上がる中、陛下ご自身が名誉総裁を務める五輪・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか懸念されていることは、宮内庁長官の「拝察」発言でも明らかです。
4度目の緊急事態宣言が発令され、五輪開催の賛否が割れています。感染者数は増え続け、ほとんど「無観客」になった。国論を二分するような場にお出ましいただき、国民統合の象徴たる陛下の地位に瑕(きず)をつけてしまうことにならないよう、行政や立法を司るものは慎重に対応しなければなりません。陛下は憲法上、政治的な中立性が求められる存在であり、俗世の対立に巻き込むべきではない。
この間、コロナ禍に苦しむ国民に寄り添う活動を続けてこられた陛下のご懸念を払拭し、安心してご参加いただける環境を整えることが、現政権の責務でした。それを果たさぬ状況で、五輪開催を祝う開会宣言を求めるのは、天皇の政治利用であり、憲法違反の疑いもある。
――国民民主党は〈「政策先導型」で国会論戦を牽引する〉をスローガンに掲げています。
玉木 我々がいち早く提案した「全国民一律10万円給付」「総合支援資金の対象拡大」などのコロナ対策が実現に至っています。今年2月に新設された「孤独問題担当相」も、我が党が19年参院選の選挙公約に掲げた「孤独担当大臣を置き、誰一人として、孤独にしない!」の具現化であり、自負しています。
――今一番、気がかりなのは。
玉木 今年度のキャリア官僚志願者(国家公務員総合職受験者)が、20年度に比べ14.5%も減り、19年度の20代総合職の自己都合退職数が87人と、6年前の約4倍に増えたことです。優秀な人材が集まらなければ、霞が関の政策立案・遂行力が劣化します。かつての私の同僚は疲れ果てた顔で「新政策に挑戦する気力がない」と言います。第2次安倍政権以降、官邸に振り回され、政治の下請け化した霞が関はダイナミズムを失った。
今、厚労省職員の約1割が「過労死ライン」を超える残業に耐えながらコロナ対策に懸命に取り組んでいます。ワクチン接種が進み、感染拡大が収束した時、彼ら、彼女らの職場に希望はあるか。重要政策が目白押しの厚労省の定員は10年前より2%しか増えていない。国家公務員全体の人員を増やす余裕がないため、長時間労働を放置したまま、今年度も定員削減計画に基づく753人の減員をやっている。仕事量に見合う人員確保より「定削ありき」なんです。
コロナ禍収束と合わせるように、厚労省から大量離職者が出る恐れがあります。国難に立ち向かう同僚に迷惑をかけたくないから、今は職場から離れられないが、これ以上は嫌だという職員が少なくないのでは――。矢面の厚労省だけでなく内閣府、経産省、国交省などからも離職者が続出する懸念があります。
事は一刻を争う。国家公務員の離職に歯止めをかけるため、超党派議員タスクフォースの立ち上げを呼びかけます。
(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)