2021年6月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
「東日本大震災・原子力災害伝承館」の壁いっぱいに引き伸ばされた、双葉町の中心部にあった大看板の写真
いわき市から仙台市に続く国道6号線は、東京電力福島第1原発の入り口を過ぎて、双葉町に入る。目指すは2020年9月にオープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」である。
「東京2020」はその招致にあたって、東日本大震災からの「復興」と、「日本の技術力」によって新たな五輪の可能性を世界に示すとした。
被災地の風景のなかに、散在する「ピース」を組み合わせれば、「復興五輪」の偽りの絵が浮かび上がる。運転している乗用車の前を行くトラックは「中間貯蔵輸送車両」の表示をつけている。除染による土砂などを保管する施設は、大熊、双葉両町にある。海岸を塞ぐように、林立する堤防はいまも建設が続いている。
大津波で沖合に流されながらも漂着したぬいぐるみ(東日本大震災・原子力災害伝承館、写真撮影/田部康喜氏)
「東日本大震災・原子力災害伝承館」はさらに大きな絵を見せてくれる。双葉町の中心部にあった「原子力 明るい 未来のエネルギー」の大看板の写真が壁いっぱいに引き伸ばされている。大津波によって沖合に流されながらも、漂着したぬいぐるみを見ると、それを愛していた少女のいまを思う。
「日本の技術力の発信」はどうか。「ロボットプロジェクト」は19年夏の第2弾の発表以後、途絶えた。
それでもなお、菅義偉首相は新型コロナウイルスの感染拡大のなかで、国民の多数が反対しているにもかかわらず五輪開催に執着している。 1年ほど前、白血病と戦う池江璃花子選手に灯のともったランタンを持たせて、開催の期待を込めた公式CMが流れた。あの時から、頼るものは、このヒロインの物語しかなかった。
少女はいま、ツイッターで悲痛な声をあげている。出場辞退や開催に反対しろという声が寄せられている。「この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」と。
(河舟遊)