2021年6月号 連載
政治に関わる仕事には欠かせない時代感覚のエッジをゆるく知覚する触媒として、現代アートが面白い。
日本初のマーク・マンダース展が独特の存在感を放つ。圧巻は、半顔に黄色の物体が突き刺さった巨大なギリシャ女神の胸像群。彼は、言葉の代わりに「物」で世界観を紡ぎ、現実世界に放り込む。違和感や時空のずれの如きあわいに、突如、新たな意味や感覚が出現する。
コロナ禍で世界の様相が一変したが、昨春のメルケルの演説は卓抜だった。困難な時こそ、芸術は人が生きるために必要であり、アーティスト支援を第一優先するというのが大意だ。背骨には深い歴史的教訓が滲む。
芸術やジャーナリズムは、民主主義の尖兵とも、「炭鉱のカナリア」とも称され、それらを涵養する社会の意思は、国の成熟度に直結する。
FACTAには人間の業に対する深い洞察と愛がある。紙媒体は苦境でも、良質な情報ソースの価値は高まる一方だ。時代の変化を凌駕し、異彩を放ち続けて欲しい。創刊15周年を慶祝して。
国会議員政策秘書 加藤千穂