令和の御世を騒がす「録音する男」。皇嗣殿下の嘆きのタネは、愛娘の一途な愛の代償か。
2021年6月号 DEEP [一途な愛の代償]
国民の理解を得る段階はとうに過ぎている
Photo: AFP=Jiji
「世間を騒がしたことへの謝罪や皇室への気遣いがみじんもない。宮内庁は本気で結婚の準備を進めるつもりなのか」
「自身や母親の正当性を一方的にまくしたてるだけで、世話になった人への配慮もない。自己中心的で、皇族の結婚相手にふさわしくない」
秋篠宮家の長女眞子さまと婚約が内定している小室圭さんが、母親と元婚約者との金銭トラブルに関する説明文書を公表した4月8日以降、こんな抗議電話が連日、宮内庁に殺到した。朝から勤務時間が終了する夕方まで同庁の代表電話がつながらなくなる事態が数日続いた。
これまでも「小室問題」が週刊誌をにぎわすたびに苦情電話はあったが、同庁の代表電話がふさがり、業務に支障が生じるような事態は初めてだ。「公表文書は逆効果で、完全に『寝た子』を起こしてしまった」と同庁関係者も国民の猛反発にお手上げの状況だ。
宮内庁は当初、小室家側が公表した文書をもって一応の説明責任を果たしたとして、眞子さまの結婚に向けた儀式の準備に入る予定だった。
「非常に丁寧に説明されている」「金銭トラブルといわれている事柄の事実関係や小室さん側と元婚約者の話し合いの経緯も理解できた」――。宮内庁の西村泰彦長官は8日の定例記者会見で、小室さん側の説明文書を好意的に評価した。
翌9日、秋篠宮家を支える側近トップの加地隆治・皇嗣職大夫は、秋篠宮ご夫妻について「小室家側がこの問題を解決するために行ってきたいろいろな対応が『見える形』になるよう努力したものと受け止めておられるようだ」と言及。「今回発表された文書を読まれて、いろいろな経緯があったことを理解してくださる方がいらっしゃればありがたい」という眞子さまの談話も紹介。「今後の具体的なスケジュールは、関係のみなさまがご相談になりながらお決めになる」と述べた。
秋篠宮家、眞子さま、宮内庁が共同歩調を取り、結婚の関連儀式に向けていよいよ動き出すと受け止められた。
だが、文書公表から4日後、小室さんの代理人の上芝直史弁護士が突然、小室さんが母親の元婚約者に解決金を支払う考えがあることを明らかにすると、雲行きは一気に怪しくなってきた。
小室さんは説明文書で「将来の私の家族までもが借金を踏み倒そうとした人間の家族として見られ続ける。切実に名誉の問題」と暗に眞子さまの威光をちらつかせながら解決金の支払いを否定。また、元婚約者が「返してもらうつもりはなかった」と発言した録音記録の存在を20回以上も引用する形で借金の認識はなかった、などと主張していた。
突然の方針変更に、宮内庁の担当記者も耳を疑った。
「409万円+端数、それにプラスアルファになる」。409万円とは元婚約者が小室さん側に支出した総額だ。まだ交渉も始まっていないのに、解決金の想定額まで口にする性急さ。解決金の原資も明らかにしていない。こうした方針は事前に宮内庁には伝わっていたのだろうか。
西村長官は4月22日の会見で「事前に(相談は)ありませんでした。事後も聞いていない」と不快感をあらわにした。
小室さん側が急に解決金支払いを言い出したのはなぜか。
上芝弁護士は「今回の公表文書で、圭さん側の認識はオープンになったわけですので、次のステップに進もうということになった」と説明する。だが、同庁関係者は「それなら最初から文書に盛り込むべきだった。話がコロコロと変わり、一方的で身勝手だ。国民が怒っている理由も分かっていない」と指摘する。
元婚約者は自身の代理人が記者契約を結ぶ「週刊現代」誌上で「(解決金は)受け取るつもりはありません」と明言。交渉は入り口で暗礁に乗り上げた。
眞子さまの結婚問題は今後、どのように展開するのか。
宮内庁OBは「現時点で誰も確定的なことは予想できない」と前置きした上で、①一般の結納にあたる「納采の儀」を経て結婚し、秋までに皇籍離脱する、②「納采の儀」を行わず、皇籍離脱して一般人となった後に婚姻届を出す、③コロナ禍を理由に結婚儀式を延期する――と3つのシナリオを想定する。
宮内庁は結婚時期をこれ以上先延ばすこと(③)に難色を示している。今年12月1日には天皇家の長女、愛子さまが20歳になる慶事を控えている。前日の11月30日には秋篠宮さまが56歳の誕生日を迎える。その前に眞子さまの結婚問題を決着させることが同庁に課せられた最優先課題だ。
ただ、皇室の慶事は国民の生活が最優先されるため、大きな災害や今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような場合、延期される。コロナ禍の緊急事態宣言で秋篠宮さまが皇嗣になったことを祝う「立皇嗣の礼」が延期されたことは記憶に新しい。宮内庁はコロナ禍での儀式簡素化も念頭に置きつつ、①を軸に準備を進めることになる。
②は、明治以降初めてとなる最悪のシナリオだ。法的には結婚以外でも皇籍離脱は可能だが、前例がない。過去に「ひげの殿下」として親しまれた故寛仁殿下が皇籍離脱発言をしたものの、皇族方の説得で実現しなかった。
何よりも、天皇陛下(現上皇さま)が裁可した女性皇族の結婚で皇室の儀式の伴わない「駆け落ち婚」など前代未聞だ。
眞子さまは上皇ご夫妻の初孫で、ご夫妻や両親の愛情を一身に受けて成長。眞子さまも周囲の期待に応えて公務を着実にこなし、多忙な秋篠宮家の活動を支えてきた。今後も内親王や女王方の結婚も控え、こうした前例を作りたくない宮内庁にとっては、なんとしても回避したいシナリオだ。
①の場合、秋篠宮さまが昨年11月、「結婚は認めるが、結婚と婚約は別」と述べ、国民に「見える形」で納得できる状況をつくらないと、「納采の儀」を行うことはできないという見解を示していた。小室さん側の説明文書は国民が納得できる内容にほど遠い。また、元婚約者が解決金の支払いを受け入れ、円満解決するかも未知数だ。ただ、元婚約者側は小室さんの母親との面会を条件に交渉に応じる意向は表明している。
小室さんは5月末、米国のロースクールを修了し、7月にニューヨーク州の弁護士資格試験を受験する予定という。夏以降、小室さんが一時帰国、記者会見を開いて金銭トラブルなどについて説明することや、秋篠宮さまが異例のお気持ちを表明し、改めて国民の理解を求めるのではないか、との観測も流れている。
だが、それで一件落着と国民は納得するのであろうか。
今回の文書では、眞子さまが、小室家の借金トラブルに積極的に関わっている事実も浮き彫りになった。加地・皇嗣職大夫は4月9日の会見で、元婚約者に解決金を払わないという小室家の基本方針は「眞子さまのご意向が大きかった」と明かした。
眞子さまは結婚当事者であり、婚約内定者の小室さんの相談に乗ること自体は問題ないが、国民が驚いたのは金銭トラブルの具体的な対応に眞子さまが深く関わっていたという事実だ。
同庁OBは「眞子さまの前のめりの姿勢が気がかりだ。皇室は公平中立で、民間人のトラブルに介入したり、一方の側に加担することはあってはならない。事実なら、越えてはならない一線を越えたとみられても仕方がない」と指摘する。
別の同庁関係者も「宮内庁が最も恐れているのは、今回の事態が引き金となって、皇室に対する国民の敬愛の念が失われることであろう」と懸念する。
長女の幸せを願う皇嗣殿下
平成の30年間、全身全霊で象徴天皇像を追い求めた上皇さまは、上皇后美智子さまと共に、能動的な活動を通じて国民との間に双方向性の「信頼と敬愛」を作り上げてきた。こうした考え方は今の天皇陛下も踏襲し、皇太子時代から国民との触れ合いを大切にしてきた。
そんな上皇さまにも在位中、日々頭を悩まし続けてきた問題があった。皇位の安定継承だ。元側近は「上皇さまは象徴としての務めを全身全霊で行うことが大切と考えておられた。それを滞りなく行うことができるのであれば、(天皇は)男女問わない、という考えもお持ちであったように私は受け止めていた」と述懐する。また、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」については「皇位継承の問題とは切り離して、一刻の猶予もできない問題とご認識されていた」と前置きした上で「今となっては難しいが、内親王方3人が揃って残ってもらえたら、という希望をお持ちの時期もあったようにお見受けした」と指摘する。
天皇陛下は、制度への発言を控え、「女性宮家」についても一貫して沈黙を守っている。「基本的には愛子さまの自主性を尊重する立場で、上皇さまの感覚とは少し違う。ただ、あのご性格ですから、最終的には国民の総意に従うのではないでしょうか」と元側近は推察する。
時あたかも女性皇族の在り方も議論の対象となる政府の「有識者会議」(座長・清家篤前慶応義塾大塾長)によるヒアリング作業が進行中だ。有識者会議は、年内にも論点を整理し、秋までに行われる衆院選後の国会に報告する予定だ。眞子さまの結婚問題がこじれれば、安定的な皇位継承策や「女性宮家」創設の是非などを巡る論議の行方にも影響を及ぼしかねない。
2005年11月15日。帝国ホテルで催された上皇ご夫妻の長女、紀宮さまと東京都職員黒田慶樹さんの結婚披露宴は、大きな祝福に包まれた。2人の仲を取り持った秋篠宮さまが拍手で祝意を示し、離れたテーブルで、まだあどけなさが残る眞子さまと佳子さまが、「ねえね」と慕う叔母の晴れ姿を見つめた。秋篠宮さまも長女の幸せを願う一人の父親であることに変わりはない。もはや、国民の理解を得る段階はとうに過ぎたことも熟知している。結婚を認めた以上、後戻りはできない。
鴨川の洪水、比叡山の僧兵、サイコロの目。平安末期、権勢をふるう後白河法皇にも、意のままにならぬものがあった。令和の御世を騒がす「録音する男」。皇嗣殿下の嘆きのタネは、愛娘の一途な愛の代償か――。