号外速報(2月8日 20:00)
2021年2月号 BUSINESS [号外速報]
「SBI総帥」の北尾吉孝氏
SBIホールディングス(HD)の100%子会社でネットを使って融資を仲介する「SBIソーシャルレンディング」(東京・港区、以下SBISL)は2月5日、「貸付先の事業運営に重大な懸案事項が生じている可能性が認められた」として、錦野裕宗弁護士を委員長とする第三者委員会を立ち上げた。2018年当時、ソシャレ最大手だったmaneoグループの不正融資が発覚し、金融庁が監督を強めた矢先の不祥事。いったい何が起きたのか。
本誌はSBISLを舞台とする不正事案をいち早くつかみ、SBIに文書による取材を申し入れていた。本誌の取材には応えず、その回答期限(2月5日金曜日)に合わせて、藪から棒に第三者委員会を発足させたのだ。週明けの8日午後、改めて回答を催促したところ「リリースに記載させて頂いている以上のことにはお答えいたしかねる」との返信があった。にわかに発足した第三者委員会なるものが6万人を超えるとされるSBISLの投資家の疑問に答えることができるのか。はなはだ疑問である。
ソシャレとは、投資家と資金を必要とする事業者を結びつける金融商品で「貸付型クラウドファンディング」とも呼ばれる。SBISLはプロジェクトごとにファンドを組成し、個人投資家から集めたおカネを事業者(借り手)に貸し付ける。同社ホームページによれば、投資家は1万円から出資可能で、借り手が支払う利息からSBISLの手数料を差し引いた分配金を毎月受け取れる。利回りは年間2.5%~10.0%と高いが元本保証はない。返済期限に借り手が元本を返済すれば、投資家に出資金が償還される仕組みだ。
広く募集をかけて投資家の資金を預かる以上、SBISLは第二種金融商品取引業者として借り手の審査を厳密に行う義務を負う。しかし、本誌の取材によれば、昨年11月と12月に元本返済期限が来た2本のファンドでデフォルト(債務不履行)危機が発生し、SBIHDが償還資金を立て替える事態に至った模様。「借り手が資金を事業以外に流用し、焦げ付かせた」(関係者)と見られる。
実はSBISL経営陣に異変が起きていた。12月31日付けで渡部一貴取締役が代表に昇格し、前任の織田貴行社長は「連絡が取れなくなった」(関係者)。織田氏と後述する「問題の借り手」との親密さは、社内でよく知られており、「SBI総帥である北尾吉孝氏の指示により、外部と連絡がとれない軟禁状態に置かれている」(同)と噂された。織田氏は、北尾氏の野村證券の後輩で、ソフトバンクからSBIへと変遷する北尾氏に付き従う「側近中の側近」(関係者)だった。
デフォルト危機が生じたファンドは19年11月募集の「SBISLメガソーラーブリッジローンファンド24号」と、翌月募集の「同25号」である。その名のとおり資金使途は太陽光発電所の開発プロジェクトで、集めたおカネはそれぞれ8億5600万円と9億1千万円。ともに運用期間は12カ月で、貸付金利は8・5%と、投資家の名目利回りは7・0%(つまりSBISLの管理手数料は1・5%)となっている。問題の借り手とは「24号」が「合同会社リニューアブルシステム9号」(東京・千代田)、「25号」が「合同会社リニューアブルシステム10号」(同)である。
太陽光プロジェクトでは、こうした「合同会社」(GK)が事業者になるが、単なる投資用のハコにすぎない。GKは株式会社と異なり決算公告義務がないうえ、会社設立手続が簡素化で費用等を節約できることから選ばれる。当然ながら従業員はいない。保有資産を倒産リスクから切り離すため、GKの代表には利害関係のない税理士を代表理事とする一般社団法人が選任される。では、実際の事業は誰が担うのか。その答えは資源エネルギー庁の「固定価格買取制度再生可能エネルギー電子申請事業計画認定情報公表用ウェブサイト」にある。
同サイトによると「リニューアブルシステム9号」が発電事業者とされる発電設備は福島県郡山市に2カ所と同県本宮市に1カ所の計3カ所(合計発電出力2375kW)、「同10号」は同県田村郡に2カ所(同3200kW)あることが分かる。5カ所の事業者の電話番号は全て「045-319-4200」。これは「テクノシステム」(生田尚之社長)なる再生可能エネルギーのベンチャー企業の代表番号である。要するに火を噴いた「福島5案件」は、同社が事業主体なのだ。
テクノシステムのホームページ
テクノシステムの年商は19年11月期で161億円。翌年は3月期に決算期を変更し、4カ月間の変則決算で売上高は56億円である。本社は横浜ランドマークタワーにあり、俳優の小泉孝太郎がイメージキャラクターを務める。小泉純一郎元首相と生田社長の対談の記事広告が、昨年8月と9月に日経新聞に掲載されたこともある。小泉元首相といえば筋金入りの「反原発」であり、神奈川県が地元。両者の縁の深さがうかがえる。同社は17年に石垣島などで牛フンを利用したバイオマス発電事業を立ち上げ、メディアの脚光を浴びたこともある。
かねて上場を目論むテクノシステムは、野村證券出身の小林廣専務が上場準備を担当し、元三井物産幹部の久宗雅人氏が専務を務めるなど、これまで順調に成長してきたように見えるが、うわべだけの取り繕いだった。
実はテクノシステムは、これまで何度か支払遅延情報が流れ、経営危機が取り沙汰された経緯がある。メインバンクがなく取引行数は30を超え、「資金繰りは綱渡り。粉飾の噂が根強く囁かれてきた」(信用調査筋)という、いわば札付きだ。
ここに一枚の「借用書」がある。15年11月末の決算対策として、ある個人から5億円借りて12月1日午前中に「5億1万円返済します」という実に奇妙なものだ。
テクノシステム社長名義で作成された借用書
事情通は「売上とキャッシュポジションを水増しする粉飾まがいの決算対策」と断ずる。かかる禁じ手は往々にしてエスカレートするもので、19年11月期の対策として「オーバーナイトで返済するので10億円貸してほしいと打診された」と、あるノンバンクは打ち明ける。
19年末にはテクノシステムの親密先が循環取引で破綻し、架空債権を買い取らされた某ファクタリング会社の社長が自社サイトで「(循環取引企業が破綻直前に行った)振り込み履歴にテクノシステムとその代表の名前があった」と公表したこともある。
同年11月28日と12月2日に法人と個人の口座に宛てた合計5億8千万円の送金履歴があったと暴露し、循環取引企業の社長から「普段から親密な関係がある大きい会社が、11月末が決算で決算時に現金預金を増やすことで銀行から融資が引ける。1日で10%手数料を払えるからおいしい話なので、ぜひどうですか? 5億貸して次の日に5・5億っておいしくないですか?という話をしてきました。(中略)この大きい会社というのが株式会社テクノシステムでした」とぶちまけたから大騒動になった。(テクノシステムの抗議を受け、現在は削除)。当時テクノシステムの会計監査人は準大手の太陽監査法人だったが20年3月に辞任し、小規模な監査法人コスモスに交代した。
テクノシステムが資金繰りに詰まっても、前述のとおり倒産隔離されていれば資金流用など起こりようがないが、ある建設業者は「福島5案件はカネがないので全く工事が行われていない」と明かす(確認を求めた本誌の質問状に回答なし)。本来、数メガ規模のソーラー発電所工事は半年もあればできるため、テクノシステムの運転資金にも流用されていた疑いを拭えない。
SBISLの報告を受け、この2本のファンドをデフォルトさせるわけにいかないと判断したSBIは、新たなGKを「リニューアブルシステム9号」と「同10号」の代表社員に据え、そのGKに昨年11月末、41億円もの極度額を設定して償還資金を肩代わりした。
さあ、地獄の釜の蓋が開いた。いつから不正が行われ、流用額はいくらにのぼるのか。SBIはテクノシステムの資金繰りを支えるのか、破綻させて新たな業者を見つけるのか。実はSBISLには、今年中の上場計画があったとされる。規模拡大を急ぐあまりテクノシステムの生田社長に利用されたフシもある。「第4のメガバンク構想」を唱え、「白馬の騎士」を気取る北尾総帥の足元で地雷が破裂した。まずは謝罪会見を開き、第三者委員会の発足に至る経緯を、投資家に説明すべきだ。
[編集部より]当初掲載した玄海インベストメントアドバイザーに関する記述の一部に誤りがあり、訂正しました。(3月10日16時)