連載コラム:「某月風紋」

2021年2月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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福島第一原発「3号機」を望む

小正月の闇に包まれた、水田に積み重ねられた稲わらに火がつけられると、火花がたちまち灰となって頭上に降り注ぐ――五穀豊穣と無病息災を祈る、みちのくの風物詩「どんと祭」である。

正月の松飾りや破魔矢、お札が次々に火に放り込まれる。木の枝に刺した餅を焼いて食べる。京の都の宮中で開かれた「左義長」の掛け声が祭りの由来だという説がある。京から同心円状のように「どんと」あるいは「どんど」は列島の各地にある。蛙の呼び名の方言が「びっき」と、東北と九州で共通なように、言葉はそのように伝播している。稲わらは灰となって、水田の土に戻る。コンバインの刈り取りも、細かく砕いた稲わらが後方に飛び散るようになっている。

東の京から波紋のように列島に広がった、言葉は「三密」であり、「時短営業」、年を越えて迫りくる「変異種」である。政(まつりごと)の中心は空っぽである。感染症を封じ込める、真剣な祈りの声は聞こえない。

今年の立春は暦のずれのために、例年よりも一日早く、如月(きさらぎ)三日である。124年ぶりとのことだ。弥生(やよい)に入れば、東日本大震災は発生から10年となる。

感染症が拡大しようとも、陽春はやって来る。みちのくの春は爆発的に訪れる。梅と桜と桃が同時に咲き誇る。福島県のほぼ中央部に位置する、三春町の町名の由縁である。大津波と福島第1原子力発電所の事故による避難者を約1500人受け入れた。

大震災後の翌年、いわき市から三春町に抜けて、植木市でハナモモの苗を買って庭に植えた。二階に届かんばかりに伸びた枝の先につぼみが見える。

「東日本大震災忌」は春の季語となった。「原子炉のしづまり給え花鎮め 野村三千代」。2週間後に「TOKYO2020」の聖火リレーが福島を走る予定である。

(河舟遊)

   

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