弁護士ドットコム創業者 元榮 太一郎氏に聞く!

コロナ禍に克つ「複業」の勧め

2021年2月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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1975年生まれ。慶大法卒。アンダーソン・毛利法律事務所を経て2005年法律事務所オーセンス及び弁護士ドットコムを設立。14年弁護士兼代表取締役社長として日本初の東証マザーズ市場上場を達成。16年自民党から参院初当選(千葉県選挙区)。20年9月財務大臣政務官に就任。

――元(もと)榮(え)先生は弁護士、ベンチャー経営者、国会議員という「三つの顔」をお持ちです。29歳の時に創業した「弁護士ドットコム」の株価がうなぎのぼり。2014年に東証マザーズに上場した時の公募時価総額86億円が30倍になりました。

元榮 アンダーソン・毛利法律事務所時代にもっと自由な発想で仕事がしたい、弁護士という仕事だけでなく、起業に挑戦する生き方があるかもしれないと思い立ち独立しました。当時の弁護士は、いわゆる「一見さんお断り」の業界でした。弁護士ドットコムのようなサービスに登録して、依頼者を選ぶ立場から選ばれる立場になることを弁護士が受け入れるはずがない、「絶対に無理だ」と散々言われました。しかし、私にはネットを通じて弁護士を身近な存在にするためのサービスには社会的な需要があり、困っている多くの人を救えるという思いがあった。常識を疑う発想はビジネスにおいて非常に大切です。常識の対義語は非常識ではなく成功だとすら思っています。

――法律相談サイトだけでなく、紙や印鑑を使わない電子契約サービス「クラウドサイン」が脚光を浴びています。

元榮 コロナ禍を機に電子契約普及に向けた急速な法整備が行われ、電子的な文書によって契約を完結させるクラウドサインの導入企業が10万社以上に急増し、業界シェアも80%を超えました。

いずれは便利な電子契約の時代が来るだろうと5年前にサービスインしたが、導入社数は堅調に増えていたものの、本格普及には時間がかかると覚悟していました。そこへコロナ対策としてテレワークの推進、業務のペーパーレス化・デジタル化の波が起こり、弁護士ドットコムは「脱ハンコ株」の代表銘柄に――。予想もしないできごとでした。

「複業という生き方」を実践

――1年前にご自身の起業体験を振り返り、『「複業」で成功する』(新潮新書)を出版されました。

元榮 本来「副業」とは本業以外の仕事を指しますが、最近は「複業」の字を使うこともあり、この場合は複数の仕事を持つことを意味します。本業と副業を組み合わせる複業もあれば、本業といえる仕事を複数持つ複業もあるでしょう。

私は長く「複業という生き方」を実践してきたので、複業のメリットの大きさを実感しています。実際、独立直後の私はまさしく複業状態でした。当初、弁護士ドットコムが収益化するまでの8年連続赤字を支えたのは、弁護士という複業があったからです。そして、その後の弁護士ドットコムの成功がなかったら参議院議員になることもなかった。さらに、現役の経営者と弁護士という生の経験が議員活動、とりわけ政策立案の役に立つのは間違いありません。

――サラリーマンも副業を持つことが当たり前の時代が来るとお考えですか。

元榮 コロナ禍により「複業的な働き方」がますます大きなトレンドになったと感じています。昭和から平成にかけて敷かれていたレール、終身雇用や年功序列は令和にはなくなります。大学を卒業して大企業に就職しても、一生が決まったと安心できなくなったわけです。

私は独立を決めた時、どんなことがあっても立っていられる自分でありたいと、法律事務所と弁護士ドットコムを同時に立ち上げ、車の両輪にしました。当時、弁護士と起業家の複業生活は珍しかったけれど、今はテレワークや裁量労働制が普及し、通勤時間も減り、場所と時間に縛られない働き方が可能になった。政府が「働き方改革」を推進していることもあり、多くの企業が「副業解禁」に動き出し、誰でもやろうと思えば複業を考えられる環境が揃ってきた。さらにコロナ禍は「まさか」に備え、複数の足場を持って生きていく意識改革にもつながったと思います。

これからは一つの会社で一生勤めあげ、他の仕事をしたことがないような人は減り、複業がスタンダードになっていきます。安定が期待できない時代だからこそ、とりわけ若い皆さんは自分に懸けてみるべきです。組織に依存しない生き方を一人ひとりが考え、自分に合った道を選択すればいいのです。

働き方の多様性は、個々人に「新たな気づきの場」を生み、それが企業の生産性アップにつながれば、個々人と企業の利益を生み出し、最終的には国富につながります。コロナ禍こそ勇気をもって一歩踏み出す、「複業」のチャンスです。

麻生財務大臣の気配りに痺れる

――弁護士コムの次のステップは?

元榮 昨年9月に財務大臣政務官(兼職禁止)を拝命し、会長を退任しました。創業オーナーとしての立場から申し上げるなら、私は社会を変えるために政治家になりましたが、民間から始まる社会変革も大いにあると考えています。そういう志のあるリーディングカンパニーとして世界に乗り出す挑戦をして社会を進化させて欲しいと思います。

戦後の焼け野原から技術立国を牽引したソニーや松下電器やトヨタやホンダのように、デジタル新時代のチャンスを活かして「日本ここにあり」という成長産業の真ん中で日本を元気づけて欲しい。その試みの一つが弁護士ドットコムであり、クラウドサインです。

――大臣政務官としての任務は?

元榮 主に参院側の与党と国会の対応を任されています。通常国会が始まると委員会に呼ばれ質問に答える役目です。

――財務省に入って感じたことは?

元榮 「半径2メートルの男」と呼ばれる麻生財務大臣の心配りに痺れちゃいました(笑)。総理大臣を経験された麻生先生が、誰にも分け隔てなく、かくも丁寧な気配りをされるものかと……。年末予算編成の最中、財務省の各階フロアーを、麻生大臣が1時間かけて回る「陣中見舞い」にお供したのですが、言葉にこもる思いやりとユーモア。職員の皆さんもファンにならずにはいられないだろうと思いました。

また、私が政務官を拝命した数日後に傘寿(80歳)をお迎えになった先生にお祝いの御酒を差し上げたのですが、数日後に封書の御礼状が届き、宛名書きから文面まで全て直筆です。礼節とはかくあるべしと教えて下さったのだと思います。

(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)

   

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