マッキンゼーが貪る「ESG利権」

菅と進次郎が育てるカネの生る木の果実を、マッキンゼーの「若大将」がもぎ取っているようだ。

2021年2月号 DEEP

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マッキンゼーの「若大将」。山田唯人氏

環境(E)・社会(S)・企業統治(G)に配慮する投資を指す「ESG投資」が世界中でバブルに沸いている。2016年には20兆ドル余りであった世界のESG投資残高は18年には30兆ドルを突破し、20年には35兆ドルに到達した見込みだ。。

日本では昨年10月に菅義偉首相が所信表明演説で「脱炭素化社会」を宣言したことでその潮流が加速し、株式市場では「ESG関連というだけで株価が思惑で急騰する」(市場関係者)事例が相次いでいる。

例えば、KDDI創業者の千本倖生氏が取締役会長を務める東証一部上場の再生エネルギー企業レノバは、政府が注力する洋上風力発電の関連銘柄と見られ、昨年9月には1100円程度であった株価が今年1月上旬に4千円前後と約4倍に上昇した。この「ESGバブル」の仕掛け人は年金積立金管理運用独立法人(GPIF)で昨年3月まで最高投資責任者(CIO)を務めていた水野弘道氏との見方がもっぱらだ。

次の日本支社長狙う辣腕

「ESG利権」を育てる小泉環境相

水野氏はGPIF時代にESG投資を開始し、当時の投資先であった米国に拠点を置く世界最大の資産運用会社であるブラック・ロックのCEOであるラリー・フィンク氏を菅首相に紹介するなどGPIF時に獲得した華麗な海外人脈を武器に政権に食い込んでいる。

環境大臣の小泉進次郎氏ともGPIF在任時代から昵懇で、脱炭素化や温室効果ガス削減目標の策定など進次郎氏に入れ知恵している「黒幕」だとされる。 現在水野は「ESG銘柄」筆頭格であるテスラの社外取締役に転身し、EVの普及推進を日本政府に提言している。

水野氏が菅氏や進次郎氏を振り付けて仕掛けているESGバブルの恩恵を受けているのは投資家や上場企業、政府関係者だけではなく、コンサルティングファームも大いなる受益者だ。その筆頭格が米大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーである。

マッキンゼーは日立や日産など製造業大手や資生堂などの小売り企業大手をクライアントに持ち、経営戦略と実行に関するコンサルを行っていることに加え、かねてより内閣府など官公庁に出向者を送り込むなど、国にも密着している。茂木敏光外務大臣はマッキンゼー出身だ。

昨年まで日本法人の代表はウィーン大学大学院修士のアンドレ・アンドニアン氏だったが、今年1月より15年振りに日本人の支社長に岩谷直幸氏が40代半ばの若さで就任した。岩谷氏は、14年6月より資生堂の代表取締役社長を務める「プロ経営者」の魚谷雅彦氏の高価格帯ブランドへの集中戦略による売上大幅増の指南役とされ、マッキンゼーでは同社のマーケティング戦略策定案件などが、ここ数年常に複数走っていた。その岩谷氏の次、或いは次の次の日本支社長の座を虎視眈々と狙うのが、16年に弱冠29歳という最年少でパートナーに栄進した山田唯人氏だ。英語が堪能な慶大経済学部卒の帰国子女で、進次郎似の端正な顔立ちに加え「若い頃は『GQに出たい!』が口癖だった」(友人のフェイスブックの投稿より引用)という目立ちたがり屋だ。

妻はクラウドファンディング事業を手がけるベンチャー「レディーフォー」の創業社長の米良はるか氏。安倍政権の政策決定に重要な影響を及ぼしていた未来投資会議のメンバーでもある。目下二人は仲睦まじく「政官界」遊泳をしているが、「かつての山田氏はスイッチが入ると手が付けられなくなり、合コンで持ち帰ろうとした女性をタクシーに乗せるや否や半裸になったとか……。後日会社に苦情が行き、本人に厳重注意が下った」(同氏をよく知る人物)という武勇伝も。

山田氏は総合商社の資源関連プロジェクトなど「食と農」の分野で頭角を現し、昨年8月には当時の日本支社長であったアンドニアン氏と共著で『マッキンゼーが読み解く食と農の未来』を上梓した。激務の合間を縫って早朝に週に数度、皇居の周囲をランニングしている所謂「皇居ランナー」だが、これもアンドニアン氏の趣味に合わせたもので、ゴマスリにも抜かりがないようだ。ダボス会議に足繁く通い、気候変動リスクに関するマッキンゼー主催のセッションでブラック・ロックのフィンク氏との議論にも参加。自らの箔付けに余念がない。

「進次郎側近」をアピール

パートナーに就任した16年以降は気候変動や脱炭素化についての発信を強め、ESG投資についても早くから論陣を張り、またこの頃から、当時自民党の農林部会長であった小泉進次郎氏に接近し始めた。「農業協同組合(JA)はマッキンゼーの大手クライアントの一つ。進次郎さんと接する機会が多かったのでは」(元同僚)。進次郎氏より6歳年下の山田氏は当初は「弟分のような扱いだった」(同前)というが、海外経験の長さなどウマが合ったようで、次第にメッセンジャーで頻繁にやり取りをする仲に発展した。「久しぶりに会うと、いかに自分が進次郎さんと距離が近いかというアピールを必ずしてくる」(山田氏を知る人物)

進次郎氏にESG関連政策を吹き込む水野氏とも、グロービスの堀義人氏が主宰する財界団体「G1サミット」を通じて接点を作り、ダボス会議など国際会議の場で食事を一緒にするなど関係性を深めている。こうした日本におけるESG関連のキーマンとの深い人脈形成が本業に貢献しているのは間違いない。

近年、企業に環境対策の充実などESGを意識した経営への変革を迫る「ESGアクティビスト」が出現しており、日本でも大企業中心に上場企業はその対策に追われている。コンサルティングファームは、環境保全への取り組みや、LGBTの雇用、コンプライアンス浸透プログラムの導入などをプロジェクトとして請け負い、巨額のフィーを得ている。中でもマッキンゼーは月額最低数千万円にも上る高単価の大口をクライアントにしている。

「昨年、五大総合商社の株式を大量保有したウォーレン・バフェットから経営改善を迫るレターが届き、各社の経営陣と経営企画担当は震え上がった。マッキンゼーは、標的になった総合商社にも食い込み、多額のESGコンサル料を取っている」(証券関係者)。水野氏が種を巻き、菅首相と進次郎氏が育てるカネの生る木の果実を、マッキンゼーの「若大将」がもぎ取っているようだ。

   

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