(5月13日 20:30)
2020年5月号
POLITICS [号外寄稿]
by 三宅伸吾(参議院議員)
「休業とテナント賃料」について政府指針を示すよう、菅義偉官房長官に要請後の記者対応(5月1日、総理官邸)
政策は普遍的な原則や法令などのルール、科学的な知見や根拠となるデータにしっかり基づくべきです。そして、現状に不備があれば、ルールの見直しや必要な財政措置を講じるのが筋です。新型コロナウイルス感染症の治療方法について、米トランプ大統領が「消毒液を注射してみてはどうか」と提案し、科学的根拠が無いと批判を受けたのは真逆の典型例として記憶に新しいところでしょう。
感染症により「生命と経済への危機」が生じている事態では、一刻も早い対応も求められます。このような考えから、テナント賃料と予算の予備費について記します。
「コロナで、店は休業。売り上げはゼロになったのに、賃料が据え置きでは潰れてしまう」。いつ、完全収束するか知れない感染症。ゴールの無いマラソンを走るような状況に、全国各地で賃料負担への悲鳴が上がっています。
賃料は賃貸借契約によって決まります。例えば、ある人気の大型商業施設では原則、テナントの月間売上高の15%が賃料。売り上げが一定水準を下回ると、最低保証出店料を支払うといった内容です。
契約に特約が無い場合、賃料は休業の形態によっては減免されることがあります。そのルールを定めているのが民法です。同法は今春、改正されましたが、施行前に結ばれた契約は旧民法によって規律されます。特約が無い場合、休業とテナント賃料について、旧民法のルールは具体的にどうなっているのでしょうか。
①賃貸人がテナントを使用収益に適した状態で提供し続けていると、賃借人の判断で休業すれば、賃貸人は義務を果たしているため、賃借人は賃料の支払い義務があります。
②多数のテナントが入る商業施設の運営側が、出入口を施錠し完全閉鎖したような場合は、賃借人は賃料債務を免れることがあります(施設に立ち入って、ネット販売の事業をできるケースなどは別扱いになりそうです)。
賃貸人はテナントを貸借人に使用収益させる義務を負っています。滅失以外の理由で賃貸人が義務の一部を果たせなくなった場合、賃料の減額を認めた裁判例もあります。
②の賃貸人による施設の全面閉鎖のケースでは、賃借人が賃料の減免を求めるのは事業や社員の生活を守る自助です。
契約に協議条項があれば、休業に際し賃貸人と賃借人双方が賃料につき誠実に協議することになります。感染症の状況に鑑み、双方が共助の精神を発揮することが強く求められます。損失の公平な分担が必要な事態です。
しかしながら問題は、誠実に協議する場合のルールが必ずしも当事者に十分知られていないことです。商業施設の賃借人の多くは中小・小規模事業者であり、契約や民法などに詳しい専門スタッフを抱えていないようです。ルールに関する情報格差が生じないよう、政府は「休業とテナント賃料」のルールにつき、早急に分かりやすく解説し、誠実協議へのモノサシを示すべきです。こうした考えは既に政府にも訴えました。
*要望書のダウンロード
賃料据え置きのままでの休業は賃借人にとって経費の垂れ流し。一方、賃料減免となれば賃貸人は収入が減少します。金融機関からの融資で施設整備した賃貸人にとっては死活問題です。都内の大手不動産開発会社は、ある地区で早々にオフィス以外の商業施設を一斉閉鎖。賃料を免除したため、巨額の損失が発生しています。
誰も得をしないマイナス・サム状態という厳しい経済環境に対応するため、政府は持続化給付金の創設、賃料支払いの猶予など賃貸人への柔軟な措置の要請、賃料減額分の全額損金算入の明確化、固定資産税の減免、金融機関に対する債務の条件変更・新規融資など事業者の実情に応じた対応の要請などに動いています。
しかし、現状では対応が不十分との声を受け、与党では最大300万円(個人事業主は同150万円)の家賃支援給付の創設、地方創生臨時交付金の拡充などを求めています。
4月30日、全国民に10万円を支給するためなどの財源を含めた令和2年度補正予算が成立したばかりですが、政府は近く2次補正予算案の編成作業に入るようです。成立は6月になるでしょう。
本稿で私が強く主張したいことは、2次補正では十分な予備費を計上すべきだ、ということです。今後の感染状況にもよりますが、ドタバタで3次補正を組まなくても済むようにするためです。国民に安心してもらうには、事態がもし悪化しても、十分な支援を速やかに実行するだけの財源を十分に確保している、このことをしっかり示すことが政治の責任ではないでしょうか。
予備費は「予見し難い予算の不足に充てる」ものです。国会の議決に基づいて設けられ、内閣の責任で支出します(憲法87条)。内閣は「相当と認める金額」を予算に計上できます(財政法24条)。予備費には使途を定めないものと、緩やかに絞った「使途限定予備費」がありますが、憲法を含む法的ルールに金額の上限規制は一切ありません。
令和2年度1次補正では使途限定の「新型コロナウイルス感染症対策予備費」として1兆5千億円を盛り込んでいます。補正予算の歳出全体約25兆7千億円に占める割合は約5.84%です。平成23年2次補正では「東日本大震災復旧・復興予備費」として8千億円を計上、予備費の割合は40%でした。
予備費は公金の使い道を厳格に定めないという意味で、国会による事前議決原則の例外です。ただ、これから詳細を詰める2次補正において、予備費の割合が極めて高い内容となったとしても、令和2年度当初予算と合わせた補正後予算全体でみた場合に、この割合が低ければ事前議決原則には反しません。
もし、予備費の多い補正予算案の国会提出に政府が慎重な場合はどうするべきでしょうか。国会法は本会議などにおける修正手続きを規定しています。増額修正も可能です(多数説)。ただ、憲法が内閣に予算提出権があると規定している関係で「国会の修正権は提案権を損なわない限度」でなければならないようです。
いつになったら視界が開けるのか―。東京などを除き、緊急事態宣言解除の動きもありますが、多くの国民は強い不安をなお抱えています。命を守り、暮らしの安心を提供するのが政治の大きな役目。2次補正予算では総額だけでなく、予備費も分厚く計上すべきです。5月11日、予備費につき国会内で20人強の議員との勉強会を主宰しましたが、多くの同僚から賛同の意見があがりました。
今回の感染症は地球規模で人類の命に大きな脅威となっただけでなく、グローバル経済にも大打撃を与えました。ただ、感染症による死亡者数を他の先進各国と比べると、日本は最悪の国々からはかなり遠い位置にあります。国民の規律、公衆衛生への高い意識、国民皆保険制度と医療従事者などの強い使命感に依るものでしょう。
我が国はこれまでも多くの苦難を乗り越えてきました。自助を尽くし、共助を深め、そして万全な公助を講じれば、今回も危機のトンネルを抜け出せると確信します。