号外速報(5月04日 06:50)
2020年5月号
POLITICS
by 佐藤綱五郎
「ウサギとカメ」の玉木VS枝野(左)
野党第1党、立憲民主党の凋落ぶりがすさまじい。未曽有の国難である新型コロナウイルスを前に存在感を発揮できずにいる。政府の一連のコロナ対策に対して世論の批判が高まっているにもかかわらず、だ。
最近の報道各社の世論調査結果が全てを物語る。産経新聞の4月調査では同党の支持率は3・7%と前回から4ポイントも下がり、結党以来で最低となった。 日本維新の会は5・2%と前回から1・4ポイント伸び、野党内ではトップとなった。
毎日新聞の調査でも立憲の支持率は5%(前回は9%)と下落し、日本維新の会の6%(同4%)に逆転された。立憲の支持率が維新を下回ったのは初めてのことだ。
何が起きているのか。立憲の福山哲郎幹事長は同党に所属していた高井崇志衆院議員に矛先を向ける。高井氏は、新型コロナ対策で緊急事態宣言が発令された直後に歌舞伎町の風俗店で快楽に溺れていたことを週刊文春に報じられた。同党は高井氏を除名処分とした。
高井氏の振る舞いは論外ではあるが、無名の一議員に党全体の評価を左右するだけの力はない。根源的な問題はトップである枝野幸男代表の発信力のなさにある。
「月に1回」の枝野代表の定例会見
コロナ危機が本格化して以降も記者会見は月1回だけ。平日は議員会館の自室で巣ごもる日々だ。発信はもっぱらツイッターでのつぶやきや動画配信だ。動画は定期的に更新されるものの、画面全体に枝野氏が映し出されるだけの工夫がない映像が並ぶ。「相手に自分のメッセージを伝えたいという意思が伝わってこない」とは、コミュニケーションの専門家の言だ。
枝野氏の脳裏には1998年の金融国会の記憶がある。当時の野党第1党、民主党の菅直人代表は「政局にはしない」と表明。小渕恵三首相は民主党など野党案を丸のみし、金融再生法を成立させた。これが行き詰まっていた小渕政権の延命に手を貸す結果となった。
小渕氏はその後、自由党、公明党と連立を組み政権基盤を安定させた。当時、若手議員として法案作業に関わった枝野氏は、菅氏の選択を失敗とみる。ゆえに今回の新型コロナ対策で政権に協力する気はさらさらない。鳴りを潜めるのはこうした政局的発想からだ。
ただ、立憲にとってはもろ刃の剣だ。そもそも立憲は枝野氏自身の個人商店だ。2017年10月の衆院選で、リベラル勢力を「排除する」とした小池百合子東京都知事の希望の党に合流せずに立憲民主党を旗揚げし、リベラル層の受け皿になった。
言い方を変えれば、党勢は枝野氏自身の求心力と連動する。数こそみれば衆参で90人近くを擁するが、そのほとんどは3年前の「枝野バブル」による風頼みの議員ばかり。政策立案ができるのは数えるほどしかいない。枝野氏が黙れば党全体が沈んでいくのも、むべなるかなである。
一方、正反対をいくのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。「対決ではなく提案」を掲げ、新型コロナの経済対策として事業者の家賃支援や生活に苦しむ学生支援、学校の9月入学などを安倍晋三首相に矢継ぎ早に提案する。20年度補正予算に盛り込まれた全国民一律10万円給付も最初に言い出したのは玉木氏だ。
野党内には「目立ちたがり屋の玉木氏のパフォーマンスにすぎない」と皮肉る向きもある。ただ野党提案のほとんどは玉木氏が発信元だ。提案数の多さは目を見張るものがある。
引きこもりの枝野氏と比べて、玉木氏の人脈は広い。立憲を離党して無所属となった山尾志桜里氏、れいわ新選組の山本太郎代表、かつて希望の党で行動をともにした小池氏らだ。古巣である財務省ともやりとりする。山本氏は玉木氏を「野党再編のキーマンになり得るスター」と持ち上げる。
とはいえ、国民民主の支持率はどの調査をみても1%前後でしかない。次の衆院選に戦える状態ではないのもまた明らかだ。玉木氏が今後、とるべき活路は2つだろう。
一つは維新との合流を軸とする野党再編だ。安倍政権への不満は保守層にも広がっている。先の目黒区長選では、維新公認の新人が現職と立憲が推す候補に割って入り、三つどもえの選挙戦を展開した。
家賃支援法案では、国民民主と維新が連携し、野党案を一本化させた。希望の党では実現しなかった自民党に代わるもう一つの保守勢力の結集をつくるとすれば、その中心にくるのは玉木氏であろう。
もう一つの道は、さらに踏み込み自民党との大連立に舵を切ることだ。政界を引退した亀井静香元金融相は、玉木氏にこの構想をしきりに持ちかける。北朝鮮では金正恩委員長の健康不安説も飛び交う。いざ半島有事となれば、挙国一致内閣の展開も考えられる。
官邸とは気脈を通じる。菅義偉官房長官とは携帯電話で連絡が取れる間柄だ。安倍晋三首相からはコロナ対策で「何かあればいつでも電話を」と声をかけられている。
はっきり言えるのは立憲と国民民主が合流するという年初に想定されたシナリオは完全に消えたということだ。両党の合流は資金難にあえぐ立憲が、100億円ともされる国民民主の保有資金が狙いをつけたのに端を発する。沈む立憲に玉木氏が貴重な種銭を投じるインセンティブはない。
玉木氏は立憲との合流についてこう語る。
「今は考える余裕もないし、考えるべきでもない。とにかくコロナを克服するということがなければ、あるいはそのことについて国民から信頼され、役に立つと思われない限り、何をしても、国民にとって意味がない。一人でも多くの人を助け、多くの会社を助けていく。そのための提言と実績づくりをしていくしかない」
枝野氏への決別宣言とも受け取れる。旧民主党の閣僚経験者は枝野氏をカメに、玉木氏をウサギに例えたうえで指摘する。「童話の『ウサギとカメ』では最後にカメが勝つことになっているが、永田町では逆だ。このままだとカメは焼け死ぬことになる」