「新型コロナ」克服のカギ握る「抗体検査」の精度/参議院議員 大塚耕平氏 

号外速報(4月20日 08:00)

2020年5月号 POLITICS
by 大塚耕平(参議院議員 早稲田大学客員教授 藤田医科大学客員教授)

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電子顕微鏡で観察されるコロナウイルスは、直径約100nmの球形で、表面には突起が見られる。形態が王冠“crown”に似ていることからギリシャ語で王冠を意味する“corona”という名前が付けられた。ウイルス学的には、ニドウイルス目・コロナウイルス亜科・コロナウイルス科に分類される。脂質二重膜のエンベロープの中にNucleocapsid(N)蛋白に巻きついたプラス鎖の一本鎖RNAのゲノムがあり、エンベロープ表面にはSpike(S)蛋白、Envelope(E)蛋白、Membrane(M)蛋白が配置されている(国立感染症研究所HPより)

4月3日の参議院本会議で安倍晋三首相に対して「集団免疫戦略を採用しているか否か」を質した。なぜなら、PCR検査件数の少なさから、諸外国では日本が暗黙裡に集団免疫戦略を採用していると推測する向きがあるからだ。安倍首相は答弁でこれを否定したが、ではなぜ検査数が少ないのか。

PCR検査には「発症者対応」と「感染者対応」の2つのアプローチがあり、前者は発症者の感染を確認することが目的である一方、後者は未発症者も対象にして可能な限り多くの感染者を探し出すことが目的である。

早くから未発症感染者にも感染力があることが確認されていた新型コロナウイルス――。「発症者対応」では未発症感染者を放置することになり、結果的に感染を拡大させ、未発症(未自覚)者、軽症者は回復後に抗体を有し、免疫を持つことになる。つまりPCR検査の「発症者対応」は結果的に集団免疫戦略を採用する場合と同じ現象を容認することになる。

4月13日、さいたま市保健所長が「検査対象者を絞っていた」と発言。理由は軽症者や未発症者感染者が病院に溢れることによる医療崩壊を回避するためだったと説明。

NHKスペシャル「パンデミックとの闘い」の中で、政府対策本部リーダーである押谷仁東北大学教授はPCR検査数が少ない理由を問われ「それが我々のポリシーだ」と答えていた。両者の発言から推察すると、理由はどうあれ、結果的に集団免疫戦略的現象を容認していたとも言える。安倍首相はその点を認識していないのではないだろうか。

「迅速検査」と「定量検査」

しかし、政府はここにきて緊急事態宣言を全国に拡大し、PCR検査数増加方針に転換した。検査数を増やせば感染者数も増加する。そこで重要になるのが抗体検査だ。4月17日、加藤厚労大臣は記者会見で抗体検査を月内にも開始すると表明した。

「PCR検査で陰性、抗体検査で陽性」の人は行動制限が必要なくなる。問題は抗体検査の精度だ。

抗体検査には「迅速検査」と「定量検査」の2種類があり、英独で導入されつつあるのは「迅速検査」。簡単なキットで診療所や自宅で自己検査できるものだ。

一方、免疫状態の正確な把握には血中抗体量を測定する「定量検査」が必要である。抗体発生後の時期(初期、中期、後期)によって免疫状態は異なり、正確な把握のためには「定量検査」が必須と聞く。

抗体にはウイルス感染初期に発現する「免疫グロブリンM(IgM)」と、中期に発現して回復後も血中に残る「免疫グロブリンG(IgG)」の2種類があり、M陰性・G陰性は「未感染」、M陽性・G陰性は「感染初期」、M陽性・G陽性は「感染中期・後期」、M陰性・G陽性は「治癒後(免疫獲得)」を表す。

英独で使用予定の「迅速検査」キットでは抗体の有無しか判定できず、免疫獲得を証明する「M陰性・G陽性」状態を正確に検出できないようだ。

英国は購入した「迅速検査」キットの精度が低いことを認め、スペインも中国から購入した「迅速検査」キットの精度が表示通りでないために返品したと報じられている。

一方、経済再開を優先する米国トランプ政権下では、食品医薬品局(FDA)が米企業開発の「迅速検査」キットを承認。当該キットの検査精度は不明である。

陽性の被検者は行動制限をしなくなるが、検査精度が低ければ再感染のリスクに晒される。4月13日、WHOも感染者が抗体を有するようになるかは現時点では不明であることを認めた。新型コロナウイルスの特性はまだよくわからない状況が続いている。

信頼性の低い「迅速検査」を拙速利用するよりも、抗体量を検出できる「定量検査」の確立を優先する専門家の意見もある。「定量検査」を確立したうえで、多くの臨床データに基づいて信頼性の高い「迅速検査」を作るべきとの主張だ。

問題はそれまで待てるのか、行動制限を伴う社会的隔離政策を続けられるのか、という点である。欧州各国ではピークアウトを報じ始めているが、それは集団免疫の成立によるものではなく、ロックアウトに伴う人的接触機会の減少に伴う現象に過ぎない。感染爆発が再燃する危険がある。

古代ウイルスとの闘いが始まる

抗体検査、血清療法、治療薬、ワクチン等々、新型コロナウイルス感染症を終息させるうえで越えなければならないハードルはかなりある。

これまでの調査で欧米とアジアではウイルスの種類が異なること(3種以上あること)、既に変異して細かい枝分かれも含めると100種以上になっていること、その特殊性から自然種ではなく人工種の可能性を指摘する専門家がいること等々、様々な情報が飛び交っている。

仮に新型コロナウイルスを乗り越えられたとしても、人類は別の新たなウイルスとの遭遇を回避できない。

地球温暖化の影響によって極地やツンドラ地帯の古代氷床や地表が露出し始めており、封じ込められていた古代ウイルスの暴露が始まっている。数億年前の様々なウイルスとの闘いが続くだろう。

こうした状況下、ゲノム解析の重要性がますます高まる。ゲノムは「遺伝情報の総体」を意味し、1920年、独ハンブルク大学の植物学者ヴィンクラーが遺伝子(gene)、染色体(chromosome)、総体(ome)を組み合わせた造語として生み出した。

VR、AR、ICTで劇的に変わる社会

ゲノムの中核であるDNA(デオキシリボ核酸)は1956年に発見され、その塩基配列の解明は今や生命科学の最重要課題。塩基は酸と対をなして働く物質のことだ。

1990年代以降、塩基配列を解読するゲノム解析、ゲノムシーケンシングが各国で行われている。「シーケンス」「シーケンシング」は「連続」「順序」という含意。塩基配列を解明することを表している。

新型コロナウイルスの塩基は29903個と判明しており、その全ゲノム解析ができれば、ウイルスの特性解明やワクチン・治療薬開発につながる。

しかし、上述のように急速に変異して多種に変容しているため、特定のワクチン・治療薬が恒久的に有効である確率は低い。今後どのようなウイルスが発現しても、ウイルス全ゲノム解析とヒト全ゲノム解析が可能であれば、個人に固有の有効なワクチン・治療薬が開発可能だろう。ヒトゲノムの塩基は約30億個。解析にはコンピュータの性能向上が不可欠であり、それが量子コンピュータに期待が集まる一因でもある。

全ゲノム解析には時間がかかり、それまでの間、未知のウイルスに遭遇する度に今回のような社会的隔離政策を行うことは困難を極める。そのため、今回のパンデミックを契機に世界や社会のシステムは劇的に変わっていく可能性が高い。

人同士の接触を避け、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が日常的に使われるようになり、ICT(情報通信技術)が劇的に社会を変容させ、未来化が進むだろう。

☆☆☆編集部より:話題の動画「三耕探求」で「新型コロナ感染症への対策の考え方を国民全体で共有しましょう」と呼び掛ける大塚耕平氏。

https://www.youtube.com/watch?v=2FRPlauUd38

目からウロコが落ちます。是非、ご拡散ください!(本誌発行人/宮嶋巌)

著者プロフィール
大塚耕平

大塚耕平

参議院議員 早稲田大学客員教授 藤田医科大学客員教授

1959年生まれ。日本銀行を経て参議院議員(4期目)。厚生労働副大臣、内閣府副大臣等を歴任。早大政経学部卒、同大学院博士課程修了(早大博士)。著書に「公共政策としてのマクロ経済政策」(成文堂)、「『賢い愚か者』の未来」(早稲田大学出版)など。仏教研究家として中日文化センター仏教講座の講師等も務める。著書に「仏教通史」(大法輪閣)など。

   

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