「黒潮発電」でエネルギー革命
2020年5月号
BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]
1949年東京都生まれ、70歳。72年東京理科大工学部工業化学科を卒業し大日本印刷に入る。88年日本システム企画を設立し、代表取締役社長に就任。
――海流に着目した理由は。
熊野 地球のエネルギーは原子力を除き、太陽に依存しています。石炭は太陽光で育った木が地下に眠って固体化したもので、石油も植物が液体化したものです。我々は19世紀と20世紀に、数十億年にわたる太陽光エネルギーの蓄積を一気に使い、植物が吸収してきた炭酸ガスを大気に放出し、温暖化を引き起こしました。「再生可能エネルギーで環境を改善する」とは、過去の蓄積を使わず、降り注ぐフローの太陽光エネルギーで賄うということです。ただ、太陽光により蒸発し雨として落ちてくる水を蓄えその位置エネルギーを利用する水力発電も、太陽光そのものを使う太陽光発電も、太陽光でできた温度ムラで空気が動くのを利用する風力発電も、地球の3割でしかない陸上にもたらされるエネルギーの利用です。海に注がれる残り7割のエネルギーは、温度差で液体が動く海流などになっています。これを使わない手はありません。
――先行者は失敗続きです。
熊野 15年以上前から米国や英国、韓国、日本が海流発電試験を実施していますがどこもうまくいっていません。流体力学の専門家は、定説では気体も液体も同じだから海でもプロペラを使いなさいと言います。そこで一番流れが速いところを見つけてプロペラを置くわけですが、陸上だと地上20~30mに設置すればよいのですが、海流は深さ1千~2千mのところの海面下100mぐらいがもっとも流れが速いんです。じゃあ、海底からスカイツリーのような構造物を建ててその上にプロペラを置きますか。スクリューが付いた潜水艦みたいなのを研究しているところもありますが、どちらもお金がかかり過ぎますよね。私は専門家の言う定説ではうまくいかないと思い、10年前から水車を使った実験をしています。
――水中で水車が回る?
熊野 普通、水車は上のほうは空中で、下のほうにだけ水が当たり、回ります。上も下も同じように水が当たれば回りません。そこで、上半分に水流が当たらないよう斜めに板を取り付けました。さらに水流を受け止める板を可変翼にして、下半分にあるときは開いて水流を受け、上半分にあるときは畳まれて水流を受けないで戻るようにしました。原理も構造も簡単で、板金の技術があれば作れます。
――残る課題は。
熊野 国土交通省と経済産業省の方と意見交換した際に「ぜひ実現してください」とエールをいただいたので、さっそく和歌山県沖で実験をしようとしたのですが、県のほうから協力は差し控えたいと言われました。黒潮は世界三大海流の一つです。なんとか日本で海洋実験し、実用化したいと思います。
(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)