モーションリブ代表取締役CEO 溝口貴弘氏

物を「優しく摑む」未来ロボット

2020年4月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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溝口貴弘氏

溝口貴弘氏(みぞぐち たかひろ)

モーションリブ代表取締役CEO

1987年神奈川県生まれ、32歳。2014年に慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程を修了。17年4月にモーションリブを設立し、代表取締役CEOに就任。

――ケーキも摑めるとか。

溝口 力触覚という感覚をロボットに与える、慶應大で開発された「リアルハプティクス」という技術を使っています。従来のロボットは角度を読みながら精密な位置決めをする位置制御で動いています。対象物がどういう挙動を示しているか、どういった変形をしているかを気にせず動くので、アルミブロックを削るときはブロックをその場に踏みとどまらせようとものすごい力を出して摑みます。なのでケーキだと潰してしまいます。リアルハプティクスを実装したロボットは対象物をモニターし、その柔らかさを感じながら動くのでケーキでも摑めます。

――すごい仕組みなのですね。

溝口 リアルハプティクスは制御の技術で、機械的には今までのロボットと完全に一緒です。ロボットに感触を持たせようとする場合、みなさん力センサーで力のかかり具合を拾いたがるんですけれども、力センサーは対象物の変形具合を電圧の変化で読み取って計測するので、ノイズや物理的な変形に弱いことから適応範囲が限定的で取り扱いにくい等の課題があります。我々のは力のかかり具合も位置センサーの情報から推定値を計算して出すので、広範囲な力をシンプルな構造で計測でき、鋭敏な感触を捉えられます。

――いろいろ使えますね。

溝口 リアルハプティクスは物の感触や人間の動きをデータ化する技術でもあります。データ化すると伝達、記録、編集、再実行ができるようになるので、遠くの人とのコミュニケーション・ツールが作れます。今の遠隔手術ロボットは感触が導入されていないので、お医者さんは視覚だけに頼って、皮膚がどれくらい引っ張られているかなどを見ながら手術されていますが、感触が加わるととても素早く正確に手術が行えるようになります。人間と同じ力加減でロボットが動くようになれば、AIと組み合わせると、ロボットが自律で作業できるようになっていくと思います。我々のやり方で取得するデータは物理に紐付いているので状況把握に強く、自動運転の車に使うと、路面の状況を的確に判断し制御できる車になると思います。

――次のステップは。

溝口 摑むという動きはどこでも使う動きなので、標準動作セットを作って、それを使えば一通りの作業ができる力触覚サービスを提供したいです。社会のニーズが大量生産から多品種少量生産に移ってきました。今のロボットは大量生産を前提に設計されているので、例えば一個一個大きさも形も違う農作物を収穫しようとすると、特定の物はうまく獲れるがほかは全部潰してしまいます。そういうものこそ自動化してみたいです。(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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