「スペイン風邪」並みパンデミック、経済危機回避の「消費税率引き下げ」も

(3月01日15:00)

2020年3月号 EXPRESS [号外速報]
by 藤和彦(独立行政法人・経済産業研究所上席研究員)

  • はてなブックマークに追加

スペイン風邪に患者で埋まる野戦病院

Photo: National Museum of Health and Medicine, US, NSP 001603

2月28日、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスが世界全体に及ぼす危険性の評価を最高水準の「非常に高い」に引き上げた。感染が確認された国・地域は50を超え、WHOから「パンデミック(感染症の世界的流行)」宣言が出されるのは時間の問題となっている。

筆者は、2月10日配信の号外速報で「戦後最大の『感染爆発』が起きる」(2月10日配信)との懸念を示したが、その想定をはるかに超える事態になりそうである。

従来のコロナウイルスとの類推から、新型コロナウイルスも春には終息するとの見方もあったが、専門家の間では「人類が経験したことがないウイルスであることから、楽観視できない」(2月27日付ナショナル・ジオグラフィック)との見方が支配的になっている。

3千万人以上が犠牲になった「スペイン風邪」

「小中高」の一斉休校など感染拡大防止策を訴える安倍晋三首相(2月29日、首相官邸HPより)

米国疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールド局長が2月14日に「新型コロナウイルスの感染拡大は今年中に終わらず、来年まで続くかもしれない」と述べたように、この問題は長期戦になると考えるべきだ。

新型コロナウイルスの感染力が高いことから、世界保健機関(WHO)の非常勤顧問を務める感染症の権威であるアイラ・ロンジーニ氏が「新型コロナウイルスの最終的な感染者数は数十億人に達する可能性がある」と指摘している。爆発的な流行の可能性を警告するのは同氏だけではなく、 香港大学のガブリエル・レオン教授(公衆衛生学が専門)も「このまま放置すれば世界人口の3分の2近くが新型コロナウイルスに感染する恐れがある」との見解を示している。両氏の予測が正しいとすれば、新型コロナウイルスが世界に与えるインパクトは、約100年前に発生した「スペイン風邪」と比較して考えるべきだろう。

スペイン風邪とは1918年から19年にかけて感染爆発したH1N1型のインフルエンザのことである。当時の世界人口は20億人弱だったが、その大半が感染し、短期間に3千万人以上が死亡した。

その流行は18年3月に米国カンザス州の米軍基地から始まり、同年7月から8月にかけて第1次世界大戦(西部戦線)に従軍していたドイツ軍兵士の間で感染拡大した。スペイン風邪による病死者は第1次世界大戦の戦死者の3倍以上に及び、これが大戦終結の原因の一つになったとされる。

日本でも18年4月にスペイン風邪が上陸するや、約3週間で全国に広がった。7月下旬に小康状態になったが、18年秋からぶり返し、翌年3月まで拡大した。ちなみに日本人がマスクをするようになったのはスペイン風邪の大流行がきっかけだった。

スペイン風邪の世界全体の致死率は2・5%程度だったが、所得水準が高い国での致死率は低く、米ウイスコンシン州の致死率は0・25%。インドの一部地域の致死率は7・8%と30倍以上の開きがあった(日本の致死率は1・6%)。所得水準と致死率の相関は、現代も変わらないだろう。

09年にメキシコで新型インフルエンザが発生し、世界的流行につながったが、公衆衛生の水準が高い日本の致死率は0・16%と世界で最も低かった(妊婦の重症化率も世界最低だった)。

今回も、政府が感染拡大期前に過去に例のない大規模介入を実施しており(大規模イベントの自粛、小・中・高等学校等の一斉休校など)、その効果が着実に表れることに期待したい。

安倍政権にしか為し得ない剛毅果断な策

むしろ今後、懸念すべきは経済危機の勃発である。 リーマンショック後の世界経済を牽引してきた中国の2月の景況感は過去最低を記録し、2月最終週の世界の株式市場はリーマンショック以来の暴落に見舞われている。

世界銀行は08年「スペイン風邪並みのパンデミックが起きれば、経済損失は3兆ドルを超え、世界のGDPは4・8%低下する」との分析を示している。リーマンショック直後の09年の世界のGDPの低下率が0・6%だったことと比較すると、今年の世界経済は戦後最大、いや、1929年以来の世界恐慌に陥るかもしれない。

世界経済はグローバリゼーションを原動力とする成長を遂げているが、新型肺炎パンデミックにより、そのアクセルを踏むことが、しばらくできなくなる。 グローバリゼーションを封じられた世界各国に残された手段は内需の拡大しかない。

 日本の消費を引っ張ってきた外国人観光客は激減する一方、昨年10月の消費税引き上げで、昨年の第4四半期の経済成長率はマイナス6・3%(年率ベース)と絶不調である。新型肺炎パンデミックの影響で今年第1四半期にリセッション(景気後退)入りは、もはや疑う余地がない。

前代未聞のパンデミック対策を打ち出した日本政府は「リセッションを脱するまで消費税を14年4月以前の5%以下に引き下げる」決断も選択肢ではないか。急速に落ち込む国内消費を支え、世界経済危機を回避するため、安倍長期政権にしか為し得ない剛毅果断な策を打つべきである。

著者プロフィール
藤和彦

藤和彦

独立行政法人・経済産業研究所上席研究員

1960年生まれ。早大法卒。経産省入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。内閣情報調査室に出向した際に、危機管理としての感染症対策の研究に従事した。『石油を読む(第3版)』など著書多数。

   

  • はてなブックマークに追加