三井住友ファイナンス&リース社長 橘 正喜 氏

「成長の壁」乗り越えるデジタル先進企業宣言

2020年3月号 BUSINESS [トップに聞く!]

  • はてなブックマークに追加
橘 正喜 氏

橘 正喜 氏(Masaki Tachibana)

三井住友ファイナンス&リース社長

1956年生まれ。大阪府出身。東京大学経済学部卒業。80年住友銀行(現三井住友銀行)入行。2007年執行役員。人事部長や米州本部長(ニューヨーク駐在)を経て13年取締役兼専務執行役員、15年取締役兼副頭取。17年6月より現職。

写真/平尾英明

――13年前に三井住友銀リースと住商リースが合併した御社(SMFL)は、この10年間に営業資産(5兆円)が2倍になり、連結純利益も倍増しました。

橘 8年前、三井住友銀行と住友商事、当社の3社が約5700億円を投じて、英国の大手銀から航空機リース事業を共同買収したのが奏功しました。当時、銀行のニューヨーク駐在だった私は、最初に売却情報をキャッチした時、新興国の経済成長を取り込む絶好のチャンスと、本社に思い切りトスアップしました。

――ジェット旅客機の需要予測は?

橘 まだまだ伸びる。日本航空機開発協会によると、運航機数は18年23904機から38年には1・69倍の40301機に増え、この20年間の納入機数は35312機(リース利用率は40~45%)と見込まれます。目下、当社の保有・管理機体は421機、発注機体を合わせると715機になります。世界のトップ5の地位を固め、6年後には(発注機を含め)1千機を目指したいですね。日本一のリース会社である当社の連結経常利益の3分の1を稼ぐ「不動の大黒柱」です。

戦略子会社「みらいパートナーズ」

――創業50周年の18年11月に株主比率を変更し、三井住友FGの連結子会社(60%)から、住友商事との折半(50%)の持分法適用関連会社になりました。

橘 これにより業法による業務の制約が減少し、お客様への提案の幅が広がりました。そのプラットフォームとして戦略子会社「SMFLみらいパートナーズ」を設立し、19年4月から営業を開始しました。

――何ができるようになりましたか。

橘 環境ビジネスでは、従来のリース・ファイナンスの提供に加え、発電・売電事業に参入できるようになった。不動産賃貸では、これまで業法上「シングルテナント」しか許されなかったが、みらいパートナーズでは複数のテナント募集(マルチテナント)が可能になりました。

プチ自慢を申し上げるなら、究極のクリーンエネルギーであるマイクロ(小)水力発電の普及を目指すベンチャー企業に出資し、地球温暖化の防止や低炭素社会の実現に向け、事業主体として取り組むことになりました。さらに、みらいパートナーズは、マテリアルリサイクルのトップ企業と合弁で、日本初のプラント解体専門会社「SMART」を設立しました。リース会社ならではの多岐にわたるモノに対する知見やノウハウを活かし、リユース、リサイクル、リデュースの3R活動を推進することで、循環型社会の実現にも貢献していきます。

また、地方創生ビジネスでは古民家のリノベーション事業をサポート。北海道ではワインツーリズムによって地域活性化のお手伝いもしています。

――かつての銀行系リース会社のカラを破ったようですね。19年4月には社長自ら「デジタル先進企業」を宣言しました。

橘 きっかけは19年1月、子会社の「SMFLキャピタル」を経営統合したことです。GEがルーツの同社の強みは、約30万社と取引がある小口リースにおける、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を用いた業務プロセスの自動化でした。旧GEのデジタル開発部隊(精鋭約20人)を迎え入れ、デジタル技術開発を外注せず、現場を巻き込み地に足をつけたデジタル化に取り組むことに決めました。最初に手掛けた「FAX自動仕分けプロジェクト」では、販売店との間の事務手続きを全てデジタル化し、事務処理の圧倒的なスピードアップに成功しました。あえて「宣言」を出したのは、主役はあくまでビジネスの現場であるから。デジタル部隊が奮闘するだけではデジタルシフトは起こらない。現場にプロセス改善の発想とやる気、いわば意識改革と行動改革を生み出す為にデジタルシフトの必然性とその先に開ける世界を全社員に示しました。

うれしかったのは、その現場から性別・年代を問わず現場と専門部隊を結びつける「アンバサダー」に名乗りを上げてくれたこと。結構ハードルの高いeラーニング等を経て100人近いアンバサダーが誕生、結果1年間で30万時間の業務量削減を達成することができました。

デジタルシフトは業務プロセスの自動化を通じて、時間と社内リソースの有効活用が可能になるだけではなく、人材の発掘やビジネスの創出につながります。その先には莫大なリース資産(モノ)を持つ当社だからこそできる新しい価値の提供、IoT関連のブルーオーシャンが見つかるかもしれません。

次の10年間も業容・利益を倍増

――4月スタートの「新中期経営計画」に、どのような思いを込めますか。

橘 この10年間に、当社は「航空機」「環境エネルギー」「不動産」を成長ドライバーに業容・収益が倍増した。次の10年間も「倍増」を目指します。それには新たな成長分野を見つけ出し、ビジネスのタネを蒔かなければならない。リース事業の再編を完了し、新たな成長基盤を構築するための態勢が整った今、私が初めて作る「中計」では、当社の目指す姿・ありたい姿を、社員一人ひとりが腹落ちするよう、噛み砕いて「再定義」したいと思います。私の思いを要約すると、第1に「お客様に新しい価値を提供する、不可欠な事業のパートナーでありたい」、第2に「SDGs(持続可能な開発目標)経営で未来に選ばれる企業になりたい」、第3に「多様性を強みとし、一人ひとりが成長に挑戦する職場(挑戦する社員を応援する会社)でありたい」、第4に「デジタルシフトで成長の壁を乗り越えるデジタル先進企業でありたい」――。

さらに親会社である三井住友銀行と住友商事の強みにあやかり、隙間で「いいとこどり」に徹したいと思います(笑)。リース会社に来て痛感したことは、銀行マンとの違いです。リースマンはモノのプロ、目利きであり、生産現場を歩けば機械・設備の耐用年数から生産工程の熟度までわかる。銀行に頼んで、工場見学に行く時、うちの担当も同行させてもらうことにしました。既に100件以上の合同見学が実現し、「銀行とリースの意見を同時に聞けるグループ」と好評を博しています。(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

  • はてなブックマークに追加