読売会長「白石スイス大使」に新聞協会・地方紙社長が苦言

「メディアのトップ経験者は権力から距離を保つべき」との立場から、山陰中央新報の松尾社長が新聞界の雰囲気を代弁(10月23日18時配信)

2019年11月号 EXPRESS [号外速報]
by 天一切流

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日本新聞協会が陣取るプレスセンタービル(東京・千代田区内幸町)

読売新聞グループ本社会長で日本新聞協会前会長の白石興二郎氏(73)が9月2日付でスイス大使に任命されたことが新聞界に波紋を広げているが、直後の4日に東京・内幸町のプレスセンターで開かれた新聞協会理事会(加盟紙社長の集まり)で、地方紙の社長がこれに苦言を呈する一幕があった。

島根県の県紙・山陰中央新報の松尾倫男社長が「白石さんがスイス大使になったのは、新聞協会のトップを務めたからか、それとも読売新聞の社員としての実績からか」などと問い質した。これに対し、山口寿一新聞協会会長(読売新聞グループ本社社長、62)は事務的に淡々と「協会会長だったからではなく、これまでの読売での活動が考慮されたものではないか」などと答えたという。

地方紙関係者によると、協会加盟地方紙の社長の中には「新聞社のトップが大使になるのは、権力を監視するという立場から見ておかしい」との考えの人が少なからずおり、理事会の前に数人が集まり、松尾氏に代表して発言してほしいと促したのだという。

外務省によるとメディア出身者の大使就任は5人目で、朝日新聞(編集委員)出身で東京大教授だった環境問題研究家の石弘之氏がザンビア大使に起用されて以来17年ぶり。大学教授や経済評論家を経て大使に就任した例はあるが、現職トップから直接起用されたのは極めて異例だ。

白石氏は1969年に読売新聞社に入社。政治部次長や東京本社編集局長などを経て2011年6月にグループ本社社長、16年6月には同会長に就任。13年6月から今年6月まで新聞協会会長を務めた。政府が4月の新元号決定の際意見を聴いた「元号に関する懇談会」のメンバーの一人。安倍内閣がスイス大使に充てる人事を決めた8月30日付で白石氏はグループ本社会長を退任した。

スイス大使の前任は、安倍晋三首相の長年の友人で内閣官房参与としてアベノミクスの旗振り役を担った元財務官僚の本田悦朗氏(64)。大使起用の際は経済ブレーンに対する論功行賞的な意味合いを持つと言われた。「前任の本田氏よりはるかに高齢の白石氏(9歳も年上)が、なぜ、スイス大使なのか? 安倍政権と『蜜月関係』にある読売新聞トップへの論功行賞に決まっている」と酷評する向きもある。新聞界全体を見回しても「歓迎はできない」「感心しない」との雰囲気が強い。読売新聞関係者によると、白石氏には海外特派員経験はなく、語学が特に堪能というわけでもないことから、社内では大使任命に違和感を表す人も少なくないという。

新聞協会会長ポストは、80年代から09年までは原則として朝日、毎日、読売三大紙のトップが交代で就いていた。しかし、この10年間は4代中読売が3人を占め、関係者の間では「読売支配」の色彩が強くなっていると囁かれている。今回の「事件」はこうした状況の中で、新聞社は政権との距離を適切に保つべきだという考えを持つ地方紙のトップが、新聞人として最低限の筋を通したというべきだろう。(10月23日18時配信)

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天一切流

   

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