新宿に新たなアートランドマーク 来春開館「SOMPO美術館」

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館が、本社ビルから居を移し、2020年5月に生まれ変わる。貴重な作品の展示も目白押し。

2019年11月号 INFORMATION

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美術館の完成イメージ(提供:大成建設株式会社一級建築士事務所)

東京・新宿駅西口から徒歩5分、西新宿の超高層ビル街の入り口に聳え立つ、損害保険ジャパン日本興亜の本社ビル。敷地内では本社ビルに隣接し、2年前から新たな建築物が工事中だったが、このほど周囲を覆っていたシートが外され、新しい建物のおおよその外観が行き交う人々の目に入るようになった。

地上6階、地下1階の6階建て。ゆるくカーブを描くフォルム。ほとんど窓がなく、未来感の漂うアート作品のような姿だ。足場が残る工事中であっても、ひときわ目立つ。

来年5月、本社ビルの42階にある「東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館」がここへ移転する。名前も「SOMPO美術館」とあらため、装い新たにオープンの予定だ。

新ロゴマーク

43年前の本社ビル竣工当初から、日本初の高層階美術館として親しまれてきたこれまでの美術館。ゴッホの「ひまわり」や、洋画家、東郷青児のコレクションでつとに知られる。美術館棟を建設し、地上に移ることになったのは2016年だった。スポーツの祭典で東京が賑わう20年を開館時期に定め、移転プロジェクトがスタート。本社ビルの施工と同じ大成建設に依頼し、本社ビルと調和する色合いやデザインで、新宿区の景観条例にも適った計画とした。

秘蔵の作品を開館記念展で披露

美術館2階の休憩スペース・ミュージアムショップ(提供:大成建設株式会社一級建築士事務所)

移転の目的の一つは、アクセスのしやすさだ。

「超高層ビルの上階に美術館があることで、これまではお客様にとってやや認識しづらく、ご入館時も入りにくい面がありました。地上に建物を作ることで、どなたもご来館しやすいようになればと思います」(鴛海晋・美術館事務局長)

西新宿はビジネス街であるだけでなく、ホテルが多く集積し、国内外から観光客の集まる町でもある。外国の人が「この時期にどんな展示をしていますか」と問い合わせてくることもしばしば。地上に移転すれば、もっと多くの人の目に触れ、観光やスポーツ観戦の合間でも立ち寄りやすくなる。

新しい美術館の展示室は3~5階の3層。展示面積は現在とあまり変わらないが、「よりフレキシブルな展示が可能になる」と鴛海氏は語る。建物の2階はミュージアムショップとカフェを併設した休憩スペースとなる予定。新宿でも貴重なアートの香り漂う憩いの場となりそうだ。

本社ビルにある現在の美術館は9月末から来年2月14日まで休館して移転準備中。2月15日から3月15日まで、現代絵画のコンクール展「FACE展2020」を開催し、それを最後に閉館する。本格的な引っ越しののち、SOMPO美術館が開館するのは、20年5月28日だ。オープン後は門出を飾る開館記念展が予定されている。その内容を紹介しよう。

東郷青児「望郷」1959年*

*Sompo' Museum of Art, 19015

開館記念展は連続して二つ開催される。いずれも630点にのぼる収蔵品から選りすぐりの作品を展示するものだ。

第1弾は、7月5日まで開催予定の「珠玉のコレクション――いのちの輝き・つくる喜び」展。美術がもたらす自由で多彩な喜びが感じられる作品約70点が展示される。目玉となるのは、大正・昭和期の日本画家、山口華楊の約10年ぶりに公開される屏風絵大作「葉桜」と、フランスの印象派画家ルノワールの「帽子の娘」「浴女」だ。それぞれ保存修復作業を行い、本来の色彩を取り戻した後の初めてのお目見えで、「葉桜」の修復過程も披露される。

続く7月18日から9月4日までは、「秘蔵の東郷青児――多才な画家の創作活動に迫る」を開催する。240点に及ぶ東郷青児のコレクションは美術館の核となっているが、回顧展は3年ぶり。絵画や彫刻などの作品約50点のほか、関連作家の作品や書簡、画材など未公開品を含む資料も展示。絵画制作のプロセスがわかる下絵や、本や雑誌などのエディトリアルデザインに関する仕事も紹介し、初公開の品もあるという。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」1888年

*Sompo' Museum of Art, 19015

さらに話題を呼びそうなのが、開館記念展の後に控える「ゴッホと静物画―伝統から革新へ―」展(20年10月6日~12月27日)だ。名高い「アイリス」など、ゴッホ作品25点を含む計約70点を展示。美術館のシンボルともいえる常設の「ひまわり」に関連した作品も紹介される予定だ。

フィンセント・ファン・ゴッホ「アイリス」1890年ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム、フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum,Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

*Sompo' Museum of Art, 19015

超高層ビル街に新たな魅力

SOMPO美術館は移転とともに、新たなロゴマークを掲げる。人と月を描いた印象的なマークは、東郷青児の作品「超現実派の散歩」からモティーフを得て、優れた美術作品に出会ったときの心の解放、自由さを表しているという。

美術館に行くと、日常の雑事や町の喧噪を離れ、確かに解放された気持ちになるものだ。地上に降りた新美術館は、その存在感とともに、超高層ビル街を訪れる人々の心に新鮮な息吹をもたらすだろう。

芸術文化を発信する新しいアートランドマークが加わり、来年は西新宿の町の魅力がより輝きを増しそうだ。

(取材・構成/編集委員 上野真理子)

   

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