年商1千億の「V字回復」オールファンケルの挑戦

島田 和幸 氏
ファンケル社長

2018年3月号 POLITICS [インタビュー]

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島田 和幸

島田 和幸(しまだ かずゆき)

ファンケル社長

1955年広島県生まれ。79年同志社大学法学部卒業。同年ダイエー入社。創業者である故中内㓛氏の秘書を長く務める。マルエツを経て2003年ファンケル入社。07年取締役(経営戦略本部長)、11年取締役常務(管理本部長)、15年取締役専務を経て17年4月より現職

――1月末に業績予想を修正し、18年3月期の売上高が、当初予想を25億円上回る1075億円になると発表しました。

島田 今期は、07年3月期の過去最高売上高(1010億円)を大幅に上回る見通しです。15年3月期の776億円から3年間に売上高が40%伸びました。株価も、社長就任時の1500円台から3
500円前後になっています。

――「V字回復」の原動力は?

島田 13年初めに創業者の池森(賢二会長)が10年ぶりに会長兼CEOに復帰し、「10倍のスピードでファンケルらしさを取り戻す」と宣言。創業者ならではリーダーシップにより、再成長軌道にのせました。最初の2年間は(当時管理本部長だった私は)池森が目指すスピード経営の足場を固め、会社組織を筋肉質にする役割を担いました。池森から「打って出るぞ!」と言われたのは14年秋。当時、年商800億円で広告宣伝費が70~80億円だったのを一気に200億円に引き上げ、売上を倍増させる大方針を打ち出しました。池森曰く「広告先行戦略・売上倍増計画」ですが、「来期は大赤字になるがワクワクするだろ!」と言われた時は「ゾッ」としました(笑)。しばらく議論を繰り返し、さすがに200億円は多すぎると、最大で150億円の広告費を投ずるプランをまとめました。

「サラリーマン社長には無理!」

――創業者ならではの大勝負ですね。

島田 サラリーマン社長には絶対無理です(笑)。これが起死回生でした。広告宣伝費を倍にするからには、販売チャネルを増やし、何としても売らなければなりません。従来の通信販売中心から、直営店舗や流通卸しへ、販路を広げていきました。結果、流通卸しの売り場はサプリメント(健康食品)で6万2千店、人気の化粧品も5万店に達しました。

――18年4~12月期の売上高が対前年比13.8%増。化粧品に限った伸びは17%増。株価が倍に跳ね上がるのも当然ですね。

島田 V字回復にはインバウンド効果もあります。直営店舗のインバウンド売上高は対前年比90%増を記録。15年の「爆買い」の後、16年は低迷しましたが、17年夏頃から来店客が急増し、大阪ミナミの百貨店の売り場では月商1億円が続いています。通常の直営店舗の月商は2千万円程度ですから「嬉しい悲鳴」です。

――社長就任直後にインバウンドの追い風が吹き出すとは、ついてますね。

島田 池森からもよく同じことを言われます。当社の無添加化粧品は、中国、香港でよく知られたプレミアムブランドで、日本で買うと半値ですから、お土産として好まれるようです。インバウンドの増勢は、夏頃まで続くと見ています。

――サプリの売上高も対前年比12%増と、かつての勢いを取り戻しました。

島田 3年間の広告先行投資が奏功し、通販のお客様数が過去最高水準になりました。中高年の眼のピント調節でお馴染みの「えんきん」は14年当時の5倍の売上高(50億円超)となり、糖と脂肪の吸収を抑える「カロリミット」も売上高が90億円(対前年比16%増)に伸び、スター製品になったことが大きい。とりわけ、「えんきん」の拡販により、健康食品を最もご購入いただける中高年層のお客様を獲得できました。また、次期スター製品候補の「内脂サポート」は、「腸内環境を整え、体重・体脂肪を減らす」効果があり、臨床試験で機能性を確認済みです。テストマーケティングの結果、50代、60代以上の健康意識の高い中高年層の心をとらえる可能性があります。 

――ネット広告へシフトしましたね。

島田 これまで通販カタログを、化粧品と健康食品それぞれ毎月70万部発行していましたが、既に化粧品で3分の2、健康食品で半分以上が、ネット注文になっています。20~40代前半にはカタログを送らず、ウェブでの情報発信に切り替えました。また、シニア向けの「ビューティブーケ」を除き、化粧品の新規広告のチラシを全廃。紙のチラシは1回作ってしまうと差し替えがきかないけれど、ウェブであれば広告効果を比較しながら、機動的なテコ入れが可能です。結果、ファンケル化粧品のネット広告は、30%から今期は68%に急拡大しました。さらにウェブを中心とした効率的なマーケティングに力を入れます。

「全社一気通貫」の強みを活かす

――来期以降の中期経営計画のコンセプトはまとまりましたか。

島田 次期中期計画の最終年度(20年度)は、当社の創業40年に当たり、東京五輪も開催されます。いま社内では創業50年の節目となる2030年がどんな世の中になるのか、皆で議論しながら、当社の「ビジョン2030」を練っています。創業50年の未来を展望しながら、経営計画に落とし込む、新たな試みです。

――新中計の柱はどうなりますか。

島田 一つは海外事業展開です。当社の海外向けブランド「ボウシャ」の売上が伸び、米欧市場に橋頭堡ができました。次に新事業、新チャネルの創出。何よりもスター製品のタネをまかねばなりません。三つ目は人材の育成です。V字回復を牽引した池森さんも80歳になられ、いつまでも甘えてはいられません。一日も早く安心してもらえるよう、次世代を鍛え、経営幹部に登用しなければ――。

――全社を貫くスローガンは?

島田 社長就任時に掲げた「オールファンケル ワンファンケル」は不変です。昨年4月に持ち株会社制を解消し、一つの会社に戻したのは、部分最適ではなく全体最適こそが「ファンケルらしさ」だと考えたからです。持ち株会社化したことで各事業は強くなったが、部門間の連携がギクシャクしたり、グループの一体感が薄れたり、お客様に不都合が出ていました。当社は研究開発から製造、商品企画、販売まで全てを自社で行う「一気通貫」の強みを持っているのに、それが活かせなくなっていたのです。創業者の決断で広告費を倍増させ、売上は伸びたが、粗利も広告宣伝に投じているから営業利益はまだまだ低い。V字回復した今こそ、全社一気通貫の強みを活かした「高収益体質」に挑戦します。それが「オールファンケル」に込めた、私の思いです。

(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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